11. 3月3日

花series Single Shot


雨宮は、仕事終わりの車の中、助手席に座る静が大事そうに抱える四角い大きな箱を見て、まさかなと呟いた。
ないないない。あるわけないと。
少し大きめの白い四角い箱は、存在感いっぱいに雨宮にアピールしてくる。だが、それを見て見ぬ振りするのが一番だなと、帰り慣れた道を車を転がした。
「あ、雨宮さん、どっかスーパーあるかな?」
「は?なんで」
「チョコペン買いたい」
「なんで」
「プレートは名前書いてないんだ」
誰の?何のプレート?と聞くまでもなくだが、どこか開いてるかな?と惚けてみる。このまま知らぬが仏と、静を送り届けて自分はトンズラしよう!と思いながらハンドルを握った。
この顔に似合わず最強という名が等しい男は、鬼塚組がタブーとしているとこに踏み入る気だ。
それがどれだけ無謀で愚かなことなのか、静は分かっていないし理解もしていない。
反対に、どこがダメなの?と聞いてきそうなレベルだ。
「雨宮さん、お酒選んでね?」
「…!?」
静の要望に、珍しく狼狽えブレーキを踏んだ。妙なところでブレーキをかけたせいで、静が何!?と驚いた声を上げたが、驚いたのはこっちだ。
「悪い、まず確認な。それ、何?」
今更ながら、改めて聞く雨宮に静は首を傾げた。
「…?なにって、ケーキ」
「あー、なるほど。雛祭りな!」
「は?なんで?うち、女の子居ないじゃん」
居ないな!女みたいな顔した奴は、お前を筆頭に居るけどな!!と思いながら、抑え様のない怒りにも似た感情を静のシミ一つない額に指先を弾いて当てる事で和らげた。
「痛い!!!!」
「バッカじゃねぇの!お前!!」
「なんで!!」
額が痛いのか、そこを擦りながら意味が分からないとばかりに静が喚くが、意味が分からないのはこっちだ。
「お、お前!組長のっ!!」
「だって、誕生日じゃん」
「じゃん、じゃねぇよ!!」
「なんで?心には言ってないよ、一応サプライズ」
サプライズじゃねぇわ!こっちもサプライズ気分な!!雨宮はハンドルをガンガン叩いて、こいつアホだ!と確信した。
「何を考えてんの?お前」
「え?クラッカーとか必要?」
「いるかぁ!!」
「え、でもさ、相馬さんはいいって言ったよ?」
「…え?」

この後、居た堪れない空気の中、心を真ん中に屋敷に居た成田と相川、高杉、そして静と雨宮でケーキを美味しく頂きました。

Happy B.D to Shin.