12. 甘い夜日

花series Single Shot


浅い呼吸と肌のぶつかる音。それに、くちゅくちゅと淫猥な音色が部屋に響く。
組み敷かれた男は赤く染まった目尻から涙を零し、あえかな声を上げて啼く。
そして、組み敷く男は劣情に焼かれた目で、淫らに乱れるその様を舐めるように見つめていた。
そう、倒錯的と言われても仕方が無い、男と男のセックスである。
「はっ、あ、っあ…っ、久志、あ、あ、…も、だめ、だめっ!イクッ…!」
グッとしなる背を抱き、際奥まで剛直を突き入れ腰を穿つ。襲い来る快感に小刻みに震える雅を抱きしめると、雅は抱きしめるその腕に爪を立て、声を殺して果てた。
「ごめ、…もうちょい」
極上の蜜壺に飲み込まれながら、堪えるのも限界と追い詰められているからこそ乱暴に白い品やかな足を持ち上げ、欲望を吐き出すため、ただ一身に腰を振る。
それは果てて敏感になった雅の身体には刺激が強く、やめてと宝石のような涙の雫を落とした。
だが、快感でほのかな桃色に染まる肌と、潤んだ瞳に更に煽られた久志は、その爆発しそうな熱を焼けるように熱い体内に目一杯、注ぎ込んだ。

ぐったりとベッドに突っ伏す雅の背中に口づけを落として、無茶をしすぎたことを謝罪する。雅の裸体を前にすると、どうしても理性が抑えられなくなる。
同じ男の身体なのに、何が違うのか、たまに不思議に思う。
久志は同性愛者ではないし、アノレクタルでもない。雅は、前者であるらしいと言っていたが、本当のところはどうなのだろう。
関係の始まりは睦言を囁き合って…というわけではない。潮の如く押し寄せる劣情に、抗えなくなった…まさにそんな感じだ。
「大丈夫か?」
ベッドで横たわる雅の前髪を掻きあげる。さらさらと指通り滑らかな髪は指の間を擦り抜けて、その強い眼差しを放つ瞳に影を落とした。
「水、ちょうだい」
雅は、久志の手に握られていたペットボトルに手を伸ばした。
指一本、動かすのも辛いという感じに、申し訳なさが増す。いつもする前には、加減をしようと思うのに、ブレーキの壊れた車のように加速しかしなくなる。
本来、そういう行為をする場所ではないのだ。受け入れる側の負担も大きいだろうと思う。
「平気か?」
「うん…」
うとうとしかけている雅の目蓋に口付けを落とすと、それに応えるように瞬きが返ってきた。
「雅と俺が、同んなじ教室おったら、どうなってた?」
「は?なに?」
唐突の質問に、意図が分からないと雅が蛾眉を寄せた。
「たられば話。俺と雅が同級生。クラスメイト。声、かけとった?」
「かけないね」
一刀両断して上体を上げて、喉を潤すために水を飲む。ゆっくりと嚥下する音がして、雅はそれを久志に返した。
「久志だって、俺に声、かけないでしょ?」
「なんで?」
「だって、俺、超優等生だもん。久志は結構、インテリが苦手じゃない。久志はさ、そうだなぁ…クラスのムードメーカー的なワル?どんな女でも、分け隔てなく相手する感じで、男友達も多い」
「ムードメーカー的なワルってなんやねん。なんか、アホみたいやで」
雅自身が優等生というのは納得出来る。毛色が違うとよく言われる様に、本当に雅は裏の世界に不似合いな男なのだ。
そこに染まらなければいけなかった過去がなければ、今頃は何不自由のない、順風満帆な日々を送っていたことだろう。
「クラスに一人は居るでしょ?悪ぶってるけど、ムードメーカーな男。それと、頭ん中、どうなってんだっていう優等生。まぁ、俺は、生徒会長とかしちゃう優等生かな。とりあえず、チャラい久志が嫌い」
「嫌い前提かよ。何か、嫌な感じとかやのうて、嫌いか」
過程の話と言えども、何だか面白くないと久志は唇を尖らせた。その子供じみた表情に、雅はふっと笑った。
「で、生徒会長の俺が、俺の事を快く思ってないワルに校舎裏に呼び出される」
「展開がベタやで」
何、その昭和風な安っぽいドラマ仕立て。でも、確かにそういう時代を生きてたなと、遠い記憶を探る。
「そこに、久志登場。助けてくれる」
「お、そこで俺に惚れる!」
「余計なことするなとキレられる。俺に」
「ですよね」
実際、どんな学生だったかは知らないが、恐らく、確実に優等生でも雅は雅なわけで、とどのつまり、我が強く、プライドが高く、負けず嫌い…。
「なかなか、手強い」
「で、そこから久志は俺のことが気になって仕方が無いの」
「俺かよっ!」
「そうだよ」
雅は妖艶に笑うと、陶器のように白い足を蛇のようにくねらせると、久志の肩口に巻き付けてきた。
「久志は何度でも俺に堕ちる」
「魔性めっ!」
うわっ!と叫ぶ雅に構わず、雅の身体を覆うラグを剥ぎ取り、まだ熱の残る窄まりに指をねじ込む。
「あっ!」
「どんだけ身分不平等な立場におったとしても、こうして籠絡して俺のもんにしたる」
「あ、ちょ…!!」
「煽った雅が悪い」
抗う雅の腕を押さえつけ、再び頭を擡げた雄を雅の熱い蜜壷に突き入れた。
何が何でも、立場がどうだったとしても、絶対に手に入れる。それほどに、愛してる。
「雅…」
言葉にしなくても、名を紡ぎ出す久志のその声で何もかも感じ取った様に、俺も…と雅は呟いた。