14. chocolate

花series Single Shot


「裸体チョココーティングってすごくね?」
「は?」
いつものアホな発言。何の脈略もなく発せられた言葉に、成田は煙草を銜えて呆れた顔で隣のソファに腰掛けて目を輝かせる相川を見た。
鬼塚組の組事務所。以前は心の塒だったそこで、最近、鬼塚組の与り知らぬところでばら蒔かれている脱法ハーブについて話していたところにそれ。
成田はハーッと大袈裟に息を吐いた。
「クリスマスじゃん?テンションマックスじゃね?」
「なんや、お前、チョココーティングして全身チョコまみれになるんか?」
「…キモ」
想像したのか、隣で書類を漁っていた高杉が零す。それに佐々木がプッと笑った。
「俺じゃねぇし!それ、キモイわ!ちげぇし!!女の子じゃん」
「お前、稀に見る変態じゃねぇか」
高杉は冷やかな侮蔑の視線を容赦なく相川に向ける。相川は口を尖らせたが、いや、マニアックだろ、それ。が全会一致。
「えー、でもさ、あのくびれとかさ、パンパンのおっぱいとかさ、あこがれね?チョコでツーッと」
鼻息荒く言うそれは、正真正銘の変態だ。成田は紫煙を吐き出して、アホくさと呟いた。
「なぁ?橘も思うだろ?」
「え?俺?」
同志を求める相川は、隣でノートパソコンを弄る橘の肩を叩いた。その橘でさえも、それはないだろうという顔を見せる。
「とりま、お前もマニアックそうじゃん」
「あ、それそれ」
徐に佐々木が相川を指差した。
「え?」
「それ、どういう意味?この間も俺に言ったでしょ?とりま」
「もー、ダメじゃん。とりあえずまぁ…じゃん!」
指を鳴らしてドヤ顔で言う相川に、何故か全員が苛つきを覚えた。
「アホなくせに、そういうシモ話だの訳分かんねぇ言葉だの、次から次と感心するねぇ。お前の情報源には」
高杉が皮肉って言うが、相川は俺、視野広いから!と訳の分からない解釈をする。
ダメダメ、相川にはストレートに、それこそ心を抉り取るくらいのあれでいかないと。
「広くないよね。お前の言葉で言うならタメの人間と話すには、ボキャブラリー不足で馬鹿が露見して下っ端からも相川って馬鹿過ぎてどうにもならないよねって思われちゃうから、自分の馬鹿さをカバーするために自分と同じレベルであろう断然若い人間と付き合って、たまにどっかで齧った教養ひけらかして相川さんすごいって思われたいだけなんだよね。ね、それってあれなんでしょ?類友」
ドンッと肩に重みが走り、相川は蛾眉を顰めた。
人様の肩に土足で足を乗っけるという、問答無用の攻撃と精神的ダメージを一気にかけて畳み込む辛辣な言葉の羅列。
そして、隣で震え上がる熊の様子…。
「崎山…あの、どっから」
「ね、チョココーティングがしたいなら、お前の立派な一物に高級チョココーティングして俺が輪切りに料理してやるよ?」
「お前が言うと、笑えないんですけど」
本当にしそうだし、今、この瞬間にも相川の股間はキュッと震えた。
「ククッ…輪切りも面白そうじゃねぇか」
高杉はツボにハマったのかクツクツと珍しく笑う。笑えないのは相川だけか。いや、隣の熊も同じようだ。
「早かったね。会議で遅くなるかと思ったよ」
佐々木は数枚の書類を崎山に差し出すと、崎山はようやく相川の肩から足を下ろした。
その相川はズキズキと痛む肩を擦りながら部屋に居るなら居るって、誰か言ってくれてもいいじゃない!?と仲間の裏切りに薄ら涙を溜める。
チョココーティングの件を話すということは、始まってすぐに居たって事じゃないの?相川と橘の席は丁度、入り口に背を向ける様にして置かれてある。だが、誰かが入ってくれば音と気配で分かるが…。
崎山は別だ…なんせ、気配がない。故意に消している節はあるが、足音さえもこの高級な絨毯に飲み込まれて消えてしまう。
「…俺、ガチで組で嫌われてる」
相川はポツリ、独り言を漏らした。