15. 新年早々

花series Single Shot


大名行列の真ん中、護られる様に走る車に心は居た。
相変わらず後部座席に転がり、煙草を燻らしながら猫の様にその煙を目で追う。
ゆらゆら揺れる煙を見ていると眠たくなったのか欠伸をしてると、わざとらしい咳払いが助手席から聞こえた。相馬である。
「何やねん」
言いたい事があるなら言えばいいのに、なかなか言わないところは自分で考えろということだろうが、そんな煩わしいことしてられない。
基本的に頭で考えて行動するということは、心のパターンにはないことだ。
「ネクタイ、してくださいよ」
「ネクタイの結び方とか知らんし」
「今日はただの会合ではないんですよ」
「くそダヌキ連中との腹の探り合い」
「何でもいいですけど、ただでさえ頭の足りなさそうなクソガキと思われてるんですから、突かれる要素は少ないに越した事はありません。クソガキはマナーも知らない常識知らずと言われるのがオチです」
いや、誰もそこまで言ってないんじゃね?とハンドルを握る高杉は思った。
今日は珍しく相馬と二人きりではなく、運転手付きの3人での乗車だ。
崎山でも成田でもなく高杉が…というのは、簡単な事。じゃんけんに負けたからだ。
心の大嫌いな賀詞交換会。毎年なにかにつけて欠席していたが、今回は風間会長直々に連絡が入った。
いい加減、出てこいよと。これはもう、本当にインフルエンザになっても何になっても出なければならない。
相馬は心の首に首輪を付けてでも引っ張って行こうと躍起になっていたし、そのせいで年末年始の仕事が増えてしまい機嫌は底なしに悪くなっていっていた。
行きたくない賀詞交換会に無理矢理連れていかれる心の不貞腐れと、機嫌の悪い相馬。そんな車に誰が乗るとモメた結果が、これ。
だが、ある意味正解だったかもしれない。
橘なんて絶対に会場に着くまでに、この緊張感に耐えきれなくなり事故る可能性大だし、空気の読めない相川は何を口走るのか分かったものではない。
結局、崎山か成田か佐々木か高杉か…4択しかなかったということだ。
幸い、高杉は他人に関心を持たない男である。二人がどんな言い合いをしようが、それに臆する事なく”へぇ…”とララジオでも聞いているかの如く流せる強者だのだ。
「新年早々、そないな腹の探り合いに行く意味あるんかよ。お前が行けばいいじゃねぇか。腹の探り合いはお前の方が得意やろうが」
「残念ながら、私も参加しないといけないんですよ。まぁ、クソガキのボロが出ない様にお目付役もかねての参加ですけどね」
「お前…最近ストレス面になってきたよなぁ」
「ああ?」
「なぁ、お前も思うだろ?」
急に振られて、高杉はバックミラーを見た。
「どうでしょうねぇ」
組長といるときはいつもそんな顔ですよ、と言うべきか否か。とりあえず、相馬が蛾眉を顰めるのは心が原因ということがほぼ…。
「私の顔のことは置いといて。今日は会食もありますので、そのおつもりで。ああ、眞澄さんや万里さんもいらっしゃいますので、くれぐれも揉め事など起こされない様に」
いや、それ無理でしょ。それ、混ぜるな危険の薬品を混ぜて、化学反応起こすなよっていうくらいに、不可能なんじゃね?
高杉は、これは結構面白くなりそうだと、小さく笑った。
「新年早々、見たくもない面見ながら飯食うとか、縁起悪ぃ」
「黙れ、クソガキ。黙って大人しく飯食ってお行儀良くしとかねぇと、屋敷の車全部売っぱらうぞ」
あ、キレた。珍しいーと高杉は思いながら、それに臆する事なく前の車列に続く。
その間も二人の不毛とも言える言い合いは続いていたが、高杉はそれをBGM代わりに運転を続けた。

「…お前、スゲぇなぁ」
宴会場の外で見張りも兼ねて一服しながらその話をすると、相川は心底感心したように息を吐いた。橘に至っては、銜えた煙草を落とす始末。
「なんで?あれはあれで戯れてるんじゃねぇの?」
そんな訳ないだろと思う、橘と相川であった。