16. 初夢 ver.1

花series Single Shot


「ね、初夢見た?」
突然の問いかけに、成田は”は?”と言った。賀詞交換会へ向かう車内。
後部座席に座る彪鷹は昨日から飲み倒しており、とりあえず気分が悪そうだ。というか、飲み過ぎ。
そんな車内、助手席に座る崎山が、ぼんやりと誰に言う訳でもなく呟いた言葉が初夢。
「初夢なんか、俺は酒に溺れとる夢」
彪鷹が唸りながら言う。が、それ、あんたの今の現状じゃん。と思う。
初夢、何だったかなー。問われると、なかなか出て来ないものである。
「ああ、なんか、トム・クルーズと一緒に戦うとったわ」
「それ、昨日、トム・クルーズの映画観たからじゃないの?TVで」
「…そうかも」
なんか、空とか飛べちゃったんだけど。あんなジャンプ出来ねぇよみたいな。めっちゃトム・クルーズと喋ってたし。大丈夫か!久志!とか言われちゃってたけど。
思い出すと、どうもマヌケだなと笑う。
「風呂の湯が酒なんやで。しかも、金粉入り!」
「それ、金箔ちゃいます?金粉って」
「…あ、そっか」
彪鷹は返事もそこそこ、ウコンが効かねぇと遂に後部座席でゴロンと寝転がった。その彪鷹の様子に、二人して嘆息する。
酒豪だと思う。成田や崎山もかなり強い方だが、彪鷹の強さは底知れない。その彪鷹がここまで酔うって。
「…ね、どんだけ飲んだの?」
崎山が声を小さくして聞いてきたが、成田が屋敷で気が付いたときには酒の瓶に埋もれる彪鷹が居たので、どれだけ飲んだのかさっぱり分からないし想像もつかない。
ただ、普通の人間が飲めば、下手すれば致死量になるような量であるのは確かだ。
「鷹千穗が最後、部屋に連れて帰っとったからなぁ」
「へぇ、あれがねぇ」
「鷹千穗は飲まんやったなぁ。なんか、日本酒とか飲めそう」
「…ね、鷹千穗が何か食べたり飲んだりしてるの、見た事ある?」
「え?…ないけど」
言われてみれば、鷹千穗が何かを食べたり飲んだりしているところを見た事がない。とりあえず、呼吸だけはしている。
え?なに?本当に死神なの?もしかして、本当は見えちゃいけない子なの?
「あいつは甘いもん好きやで」
後部座席から二人の会話を聞いて、彪鷹がプッと笑いながら言った。
まさかの甘党。それもそれでどうかと…。
「ケーキとか、似合わへんなぁ」
「ちゃうちゃう、餡。饅頭とか」
「それも微妙!!」
なんか、想像の上をいく男だなと成田は笑った。
「そういや、崎山の初夢は?いい夢見た?」
「…拷問してる夢」
「…え?」
「俺、ワーカホリックなのかなぁ」
何のワーカホリックだよ!と成田と彪鷹が思ったのは言うまでもない。