17. 初夢 ver.2

花series Single Shot


「初夢がさぁ、殺される夢だったとかあり得なくね?」
相川はポツリと漏らす。
雨宮は煙草を咥えて後部座席の相川を見てから、助手席の佐々木に視線を移した。
正月恒例の仁流会賀詞交換会。所謂、新年の挨拶会だが、それへ向かう途中の車内。
相川の妙な話の切り出しに、雨宮と佐々木は微妙な顔をした。
前には成田達の乗車する車があり、後ろが心と相馬。その後ろには橘達の乗車する車が大名行列よろしく並んで走る。
「殺される夢は吉兆の現れらしいから、大丈夫だよ」
開いてるか開いてないか分からない細い目を更に細くして、佐々木は笑う。
初夢かー、夢なんか見たっけなぁ…と思いながら、雨宮は赤信号でブレーキを踏んだ。
「干支の夢見るのがいいんでしたっけ?」
「そうだねぇ、干支の夢とか、富士山や鷹とか茄子とか」
「茄子の夢が縁起いいとか、農家じゃね?俺、農家じゃねぇもん」
農家限定の縁起じゃねぇよ。と言っても無駄かと佐々木は代わりに息を吐く。
だが相変わらず、相川は不貞腐れ気味だ。まぁ、吉兆と言われても、殺される夢なんて目覚めが悪いだろう。
「佐々木さんは、初夢なんすか?」
「え?俺?俺、夢覚えてないんだよねぇ」
「あ、分かります。俺も覚えてないっすわ」
「俺は覚えてるしぃー、バッチリがっちり覚えてますぅー」
一体何なんだと、雨宮と佐々木は顔を見合わせた。絡みがいつもの倍で、ウザさもいつもの倍だ。
「相川さぁ、初夢なんてね、迷信だから」
「そうそう。殺される夢ってのは目覚めが悪いかもしれないですけど」
宥めながら信号が青に変わったので、ゆっくりアクセルを踏む。さすが、正月だけあって他府県ナンバーの車が多い。
「車、多いっすねー」
「そんな、殺される夢って簡単に片付けるけどなー!ってか、お前らも見てみ!超ヘコむし、マジヘコむし!」
「うるさいなー、何だよ、刺殺でもされたのか?」
「撲殺だし!回し蹴りだし!笑ってたし!崎山!」
「え?」
と、雨宮と佐々木の声がダブったのは言うまでもない。
そして、それ正夢だろと思ったことも、言うまでもない。
相川の初夢は崎山にボコボコにされて殺されるという、明日にでも本当に起こりそうな、悪夢だった…。