5. 至福のとき

花series Single Shot


ギシギシと不規則なリズムで軋むスプリングの音と、噛み殺した喘ぎ声。部屋に響く淫靡な音色。
どれもこれも自分が醸し出していると思うと、堪らなくなると雅は思った。
「い…あっ!」
堪えきれない声が零れると、雅を組み敷く久志は勝ち誇ったように笑う。
こんな時しか主導権を握れないと口癖のように言う恋人は、雅が堕ちていくのが好きだと言う。
趣味が悪い奴だと、雅は思った。
何の?
男の。
「雅、雅…」
呪文のように名前を呼ぶ声に、心を撫で回されているような錯覚が起こる。
ゾワゾワと身体の奥底から痺れが沸き起こって、一気に爆発しそうな、この瞬間が堪らなく好きだ。
何も考える隙間もなくなる瞬間(とき)…。
「あっは…!あ、あ、久志!イクッ!」
ガクガクと震え出す雅を押さえつけながら、久志は雅を突き上げるスピードを上げていく。
目の端からボロボロ涙が溢れ、逃げ出したいような強い快感に頭が真っ白になる。
「あああっ!!!!」
限界を迎えた身体を久志に強く抱き締められ、雅はその熱い熱欲を吐き出した。
同時に、身体の奥底に叩きつけられる火傷しそうなほどに熱い久志の熱に、身体の中から溶かされそうで雅はそれが幸せだと感じた。

「雅…大丈夫か?」
久志はコツンと、雅の頭にミネラルウォーターのペットボトルを当てる。
ヒヤリとするペットボトルを受け取りながらも、一つ一つの動作が億劫で堪らなかった。
セックスの後の倦怠感は尋常ではない。
事実、身体への負担も生半可のものではないのに、それを止めたいだなんて一度も思った事はなかった。
「お前…加減しろよ」
とりあえず、文句だけは言っておこうと抗議の目を向ければ、久志は笑って、俯せでベッドに横たわる雅の白い背中に口付けを落とした。
「久々で加減なんか出来ん」
背中を這い回る舌が怪しげな動きに変わり、雅は久志を押し退け身体を反転させた。
「明日、仕事だぞ、バカ」
「もう…」
久志は不貞腐れながらもベッドに潜り込み、雅の身体を背中から抱き締めた。
「組長の…調べてんの?」
「ん?ああ、ネコ?調べて若頭に渡した」
久志の言っているのは前日拾った、男のことだ。組長である鬼塚 心の、周囲を驚倒させた大事件。
さすがの相馬も頭を抱えていたが、どこの馬の骨か分からないのは具合が悪いので、その男の身辺調査を雅がしていたのだ。
「訳ありなん?」
「ま、訳ありかな。大多喜組の飼い犬だな」
「大多喜組?」
「ケチな組だよ、クスリだけで伸し上がった」
「そうなん」
「顔見た?」
「え?ああ、うん。車から」
「何か…凄い雰囲気持ってるよね」
「雰囲気?俺、そういうん感じんから分からん」
相変わらずだなと、雅は笑った。そんな雅を他所に、久志は視界に入り込んだ白い肩にチュッと吸い付く。
陶器の様に白い肌に、淡い色の花弁が一つ咲いた。
「忙しくなるよ」
「ん〜、何で」
雅の言葉を聞きながら、久志はどんどん花を咲かす。
「あのネコ、とんだ拾い物かもよ」
ピタリ、久志の動きが止まり雅を見れば、何か察している様な顔。
だが、生憎のところ久志の興味も感心も、腕の中に居るこの男だ。
「ほな、やっぱり充電!」
「うわっ!」
ベッドの上で戯れ合いながら、雪崩れ込むようにバードキスを交わす。
広い背中に手を回しながら、こんな時間がいつまでも続けば良いのにと雅は思った。