雅は洗面台の鏡で、映し出された自分の顔を見ていた。
室内に籠ることが多いせいもあり、白い肌。
子供の頃から海に行っても肌が火傷したように赤くなるだけで、健康的なこんがり茶色い茶褐色の肌にはなれず、下手したら水膨れになる様な肌質だ。
それに加えて、どれだけ食べても太らない身体は線が細い分華奢に見える。
顔のパーツどれを取っても女のような作りで、この世に生まれてから付き合っている顔だが一切好きになれない。その中でも一番は、左目の下の泣き黒子。
「女かってーの」
一つだけならまだしも、御丁寧に二つ仲良く並んでいる。
相馬も綺麗な顔だが、女のようなそれとはまた違う。路線は同じ系統かな、なんて思ったのだが… 。
「いや〜、べっぴんやね」
急に後ろからガバッと覆い被され、思わず鏡に手をついた。
雅よりも長身で体格も良い男は、自分の身体の大きさも考えずに戯れ付いて来る。
「おい!」
雅の抗議なんて無視して、その大きな身体の久志は雅の髪に鼻を埋めた。
「どないしたん」
「別に」
素っ気ない返事をして、鏡に目を向ける。鏡に映る久志は、どこをどう見ても男だ。
いつも上げてる前髪を下ろすと、少し幼くなる気がする。笑えば悪ガキの様な表情で、雅はその顔を見ながら溜め息をついた。
「泣き黒子ってさ、幸せになれないんだって」
「はあ?」
雅の急な発言に、鏡の中の久志は顔を顰めた。
「ばあちゃんにね、言われたんだよね。泣き黒子は良く泣く証しだから、雅は強くなりなさいねって」
事件の前に祖母は死んだが、生きていればまた世界は変わっていただろうか?
雅には、厳しく、だが優しい祖母だった。雅と名付けたのも祖母だ。
贅沢を許さない人だったが、本だけは何冊でも買い与えてくれた。
「俺はちゃうと思うなぁ、それ」
「は?」
「ばあちゃんは雅が良く泣くかもしらんから、早いことエエ人見つけって言いたかったんやない?」
「…」
「だから、雅が泣かんでエエように俺が抱いといたる。それに、俺はその黒子大好きやで。あ、でもばあちゃんに謝らなな」
「…どうして?」
「違う意味で、雅を啼かしてますて」
にんまり鏡の中でやらしく笑う久志の鳩尾に、雅は思いっきり肘を入れた。
痛いと喚く久志を横目に、明日からは違う気分で鏡の中の自分を見れそうだなんて、雅は思った。