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自動販売機に財布を押し当て、神原は自分の煙草の銘柄のボタンを押す。
財布に入れている成人識別のICカードに反応して、自販機が軽快なサウンドを鳴らした。しかし、いつからこんな面倒な買い方をしないといけなくなったのか。
神原は舌打ちをして、煙草を取り出し口から取り出した。
「俺の煙草は?」
背中に掛けられた声に神原は振り向きもせずに、買ったばかりの煙草の封を開けた。
「お前、早漏やったか?」
「あほう。そないな訳あらへんやろ。無駄打ちせんねん」
「なんや、やらんかったんか?エロそうな女やったやんけ」
「エロくても…」
声の主、万里は唇を尖らせてスーツのポケットに手を突っ込んだ。不貞腐れモードだ。
キャバクラで引っ掛けたホステスとホテルへしけこんだのは、つい30分ほど前。女の肩を抱いてホテルに消えたのを確認して、小山内と帰路に着いた途中、神原の携帯が鳴った。
帰るから、迎えに来てと。なんだそりゃ…である。
よっぽど脱いで酷かった…例えば臭かったとか、あの撓わに実った胸が偽物だったとか。まぁ、だとしても万里はそんな事を拘るような質ではないので、考えられるのは…。
「お前がヤラんのなら、咥えてもらやぁよかったわ」
「神原ん趣味やないやん。小山内にやてやりゃ良かってん」
少し離れた場所で車の隣に姿勢良く立つ小山内を万里が見た。出来た部下は出しゃばらず、ただ周辺を警戒するように目を光らせている。
「小山内は、ああいう手管がプロ級の女は嫌いやからなぁ。独活の大木の見た目通り、清楚な女がええんやと」
「そない?猛獣みたやない?あいつ」
「そうか?」
「神原…目、交換してや」
ポツリ、万里が零した。それに神原は何も言わず煙草に火を点ける。するとすぐに紫煙が風に乗り、花びらの様に舞った。
「キモいってか」
「まぁ、言われ慣れとるけどな。顔ん傷と目と、綺麗にしてくれる病院ないの?やと。箔が付くにしても、やり過ぎらしいわ」
神原は、あのクソ女と苦虫を噛み潰したような顔をした。
「言われ慣れとるけど、病院とか綺麗にとかキツイわ」
「さよか」
神原はそう一言言うと、自販機に凭れ掛かり何事もないような顔を見せた。
「俺の目も傷も、初めて見た時に驚きもせんとなんも言わんかったんは神原と小山内だけや。親父ら家族はこん傷見る度に寂しそうな顔しはる」
「いっそ、伊達政宗みたいにあれつけろや」
「誰それ」
「な、お前はアホやねん」
「なんやねん」
「アホやから、いらんこと考えんなちゅうことや」
神原はそう言うと万里に近付き頭を撫でるのかと思いきや、額に指を弾かせる。パチンと良い音が夜道に響いた。
「あいた!!」
「焼き肉でも行くかー」
万里はそんな神原の背中に縋り付き、ぎゅっと腕を回してくる。
馬鹿力め、腰が折れるわ!と思いながら、それを咎めることもなく神原は煙草を燻らした。