花となれ

花series second1


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「ほれ、さっぱり」
心はそう言うと静を持ち上げ、どぼん。湯船に投げ込んだ。
投げ込まれてもがいても、どこにも身体をぶつけないのがスゴい!なんて感心している場合じゃない。
「ぷはっ!!てめ…っ!!」
顔を出して淵に捕まり、自分の身体を洗う心を睨みつけた。
だが怒るのも馬鹿馬鹿しくなるほどに檜の香りが心地よくて、そのまま湯船に浸かる。浸かりながら、じんわり後ろが沁みて蛾眉を顰めた。
すると隣に入ってきた心に腕を掴まれ、その上に跨ぐ様に座らされた。
「…いやいや、おかしいだろ。この格好」
「そうか?」
どこが?と言わんばかりの顔をされて、文句を言うだけ無駄かと、そのまま心の上に収まる。
収まりながら何気に天を見上げた。天井は吹き抜けで空が見える。
「露天風呂?」
「ああ、雨の時は閉まる」
「閉まるって…この家、スゴすぎ。檜とか…」
「改装の時、頭領に薦められた」
「改装したのか?」
「庭とか、ほとんどは手はつけてへん。俺らの部屋の増設とか、この風呂。あとは離れくらい」
言いながら、心は自分の目の高さの位置にある、静の色づいた乳首をぺろり舐め上げた。
「ひっ…!!おい!」
「ん?」
ちゅうっと吸われ、驚く。暴れると、お湯がちゃぷちゃぷと波打った。
先ほどと違い、風呂はしっかり灯りが点されている。
心を見下ろすと、乳首を吸って、先端を舌で弄るのが視界に入ってカッと顔が赤くなった。
ベッドの上では弄ることのなかった乳首。それを今は子猫がミルクを飲む様に舐めたり、小さく齧ったり。
「胸、ないって…言った!」
ぱちんと背中を叩いて訴える。
何の膨らみも存在の意味さえも分からないそこを、そんな風にされると居た堪れなくなる。
その愛撫に息を漏らして声を上げそうになるのが、堪らなくなった。
「果実みたいやろ?」
「…なっ!!」
「黙っとけ…」
再度、胸元に顔が近付き、刺激に形を変えた乳首の先端を歯で甘噛みされた。
ジジッと焼ける様な感覚に片目を閉じた。背骨に電流が走って、身体が跳ねる。
「…うっ…んん」
ぎゅっと心の肩を掴んで、唇を噛んだ。ちゅっと音を立てて吸い付かれ、舌の先端で尖った乳首を弄られる。
そして尻をお湯の中で揉まれ、その反対の手が項に回った。その手にぐっと力を入れられ、顔が下がったところで唇を奪われた。
舌を絡ませ唇を舐められながら、指で乳首を捏ねられる。
「っん…ん、あ…」
漏れ出る吐息を飲み込まれ、じんわりお湯のせいでない熱が身体を襲う。
舌を絡めて、唾液を交換する。そうしながら静は心の首に腕を回した。
くちゅり、銀の糸を引きながら唇が離れる。ゆっくり開けた瞳に、心のてらてらと濡れた唇が写り、思わず顔を顰めた。
「…お前、最悪」
不貞腐れ気味に言うと、心はくくっと笑った。かと思うと、後ろにずるりとした衝撃。
「あっ…!!!…んっ!!」
首が仰け反る。腰が戦慄いて、それを心が支えた。
「…こ、の…ボ、ケ…」
「悪態を、つくな…」
中に入り込んだ心の熱に目眩がした。
予告もなしにいきなり入れるってどうなってんだ!と思いながら、その恨みを心の肩に爪を立てて訴えた。
お湯のせいで、あの耳を塞ぎたくなるような音色は聞こえないが、揺さぶられる度にお湯が暴れて湯船から出ていく。
「あ、あ、んっあぁ…や、やだ…やだ」
ぐずぐずと泣きそうになる。お湯のせいで動きが鈍い。
刺激も中途半端で、それが煩わしいと思う事がやってられない。冷静な自分を押し退けるように、強い刺激を身体が求めてる。
ぎゅっと心にしがみついて、視界に入った耳たぶに噛み付いた。
「いてっ!!…ったく、噛むわ蹴るわ、どうなってんねん」
「…あっ!!」
心は文句を言いながら静を抱えて立ち上がり、浴槽の淵に腰掛ける。
浮力のなくなった身体は、心のペニスを根元まで迎え入れた。
「うわぁ…!!ああっ…うんっ」
「はぁ…」
小さく心が息を吐いて、次の瞬間には静の腰を掴んで揺さぶりだした。
ずるり、油断をすれば身体が滑っていきそうで、静は慌てて心の腰に足を回した。
「や、…!!や…っだ…ぁ!!…ん……、ああ…っあ…ああ!!…やめっ…!」
「は、うそ、絶対に…気持ちエエ」
何を根拠に!と思っても後の祭り。二人の間にある静のペニスは、固く息づいている。
赤く色づいたそれは、ぴくぴくと震えて存在をあらわにしていた。気持ちよさそうに先端を赤く染め、蜜を零し震えるペニスを見て、静は身体を震わせた。
「やぁ…ああ、…んっ…!あぁ…あ、ぁ…!し、…ん、心…!…あぁ、あぁ…あ…ぁ!」
怖い。こんなにも何回も勃ち上がる自分の性器が、異常なんじゃないかと思ってしまう。
快感で脳が溶けそうで、あられもない言葉を吐きそうで頭を振った。
「ん…ん…っ…!…!んっ、ん…んー!やぁ、もう…ぅ、や…ぁぁ…!いっ…!ああ…、ああ…ぁぁっ!…あぁ…ぅ…!」
「はぁ…静」
ぎゅっと片手で身体を支えられ、放置されていたペニスが掴まれ、脳まで一気に電流が走った。
どろっと先端から白濁した蜜が出て、静は天を仰ぎ見た。
「あ!だ…めっ、も……ぅっ…や…ぁあ…!あ…ああ…っ、あ……あぁ!心…、あぁ…っ、…あぁぁあっ!」
馬鹿みたいに喘いでいる。なのに、声は止まらないし動きやすい様に身体が心に協力している。
何してんだ!という理性を簡単に裏切って、身体が欲望に忠実に従う。
中の、あの場所に心のペニスが当たる度に、全身が歓喜に震えた。気持ちイイなんて声まで理性を裏切りそうで、静は唇を噛んだ。
「は…ぁ、は…っ!あぁ…ぁ、だ…め…っ、で、出…る…ッ!!…やぁっ、もう、い…やあ!あああっあぁ…ッ!!!」
下から突き上げられながら、前を無茶苦茶に扱かれる。
心の限界もそこ。熱い吐息を吐きながら、凶器と化したペニスで中を犯して静を啼かした。
「あぁぁっ、ああ…っ、そ…っこ…っ!!そこ…、だ…っめ…!!だ…め…だめっ!!!…っ!」
大きく張り出した雁首で、静の嫌がる部分、前立腺を攻められ身体の痙攣が大きくなった。
全身で達しているような、感じたことのないエクスタシーに酔い痴れ、知らず知らず腰を振る。
喘ぐ声も途切れ途切れ、開きっぱなしの口から涎がつーっと垂れてお湯に落ちた。
「っ…は…あああ!!あ、ああ…、無…理…、無理…ぃっ…ちゃ…ぁっ…、ああっ、あ…!、イ…イク…ッ…!!ああぁ…ぁあー…!!!!イ…クっ…!!!」
ぎゅーっと心の腰に回った足に力が入り、そして痙攣を起こす。静のペニスは白濁した蜜を吐き出し、心の手や腹を汚していた。
それと同時に中の蠕動が激しさを増し、心は小さく息を吐いて静の中に熱を吐き出した。
身体を一瞬、震わせて首を仰け反らせ全て出し切る。数回、腰を振って静の中を堪能すると、大きく息を吐く。
同じように項垂れた静ががくっと落ちて、その身体をしっかりと掴んだ。何も言わないなと、その顔を覗き込むと気を失っていた。
心はその静の頬に口付けて大きく息を吐いた。堪能するようにして、静を抱きしめるとゆっくりと目を閉じた。
「…やっと、…手に入れた」
そう小さく呟くと、誰も見たことがない穏やかな笑顔で静を見つめた。

重たい目蓋がゆっくりと持ち上がる。
朧げな視界で辺りを見回すと、少しだけ見覚えのある部屋。心と寝た、部屋だ。
心は気を失った静をそこに連れてきたらしく、人の気配はないように感じた。とりあえず、隣に心は居ない。
気怠げな身体を動かして自分の髪に触れてみる。髪の濡れ具合から、そんなに時間は経っていない。
心は何処だと思いながら、起き上がろうと思うことさえしなかった。
身体が我が物でないくらいに動かない。指先一つ動かすのも億劫。無茶苦茶しやがってと恨み節を思いながらも、気持ちは満たされていた。
中身が足りないグラスからぼとぼとと溢れでるくらい、大袈裟に言うとそれくらいに気持ちが満たされていたのだ。
これを幸せと呼ぶかは分からない。
相手は心だ。年下で俺様で傲岸不遜で驕り高いだけでなく、極道。
静の人生を狂わせた人間と同じ巣穴に居る、極道。
これからどうなるか。
どうなっていくのか。
どう狂うのか。
静には分からない。
心はきっと、世界で一番の気分屋だ。ある日突然、要らないと捨てられるかもしれない。
その日が来るのか来ないのかなんて、それこそ心にも静にも誰にも、神でさえも分からないことだ。
人の心の移り気なんて、誰にも分からない。
静が死ぬほどに、心を嫌う事さえあるかもしれないのだ。
天地がひっくり返っても心の性格はあのままだろうし、静の強気の性格もこのままだろう。
そして二人の性別も、死ぬまで男と男。
だが、それでも静は満たされていた。結局、そんな先の事なんて考えても仕方がないのだ。
過去よりも未来よりも、現実いま。
「…生きてんのか」
聞こえてきた声に片目を開けて、また閉じる。
出やがったな、この野郎と声に出さず言ってみた。元気があれば、一発か二発殴らしてもらいたいくらいだ。
「…どこ行ってた」
「飲みもん」
ヒタリ、額に付けられたペットボトル。受け取ろうにも、本当に身体を動かすのが億劫でやめた。
ベッドに潜り込み、また目を閉じる。それに寝てしまいそうだなと思って、ベッドから顔を出して残る力を振り絞り、手を伸ばした。
「…寝るから」
静の意図が分かったのか、心は柔らかく笑う。
ベッドの横のチェストに置いていたリモコンで部屋の灯りを消して、静の隣に長い身体を横たわらせた。
「今日は素直で驚く」
心はそう言いながら、静の身体を抱き寄せた。その心の懐に頭を擦り寄せ目を閉じる。
リズム良く聞こえる心音。血液が力強く流れる音。
「…眠たい」
この音を聞くだけで安心する。すーっと息を吸い込めば、心の香り。
催眠術にかかったみたいになる。
「おやすみ」
言われ、頷いた。

朝、目覚めると心の顔が目の前にあって、一瞬、状況がわからなかった。
だが少し身体を動かせば、痛めたことのない場所が傷んで身体が強張る。疼痛…激痛…。
「あいたたた…」
思わず音を上げると、心が気が付き静の頬を撫でた。
「…よぉ」
言いながらも目を開けない。見た目同様低血圧な男は、寝起きが悪いようだ。
だが静と違い、身体に痛みはないだろう。きっと、さっぱりすっきり…。
思うと腹立たしくなって、目の前にポンと置かれた手にガブリ。容赦なく噛みついた。
「…いたっ。なんやねん」
ようやく開かれた目は非難めいていたが、静からすれば噛まれて当然。というより、まだ噛み足りないくらい。
「…死ね」
「…はぁ?」
目覚めの一発が”死ね”だなんて、物騒極まりない話だ。だが、今はそれくらいに腹立たしい。
ごそごそとベッドに潜り込み、気怠げな身体にげんなり。そこでふと、違和感に気がついた。
「…あれ?今日、仕事は?」
夜中でも明け方でもない、がっつり朝だというのがカーテンの隙間から覗く朝陽で分かる。
心は何だかんだ多忙な男だ。こんなゆったりベッドで寝ている事なんて稀なことで。
「休みか?」
「今日は引っ越し」
「……え?」
言われた言葉に、静は目を丸くした。