花の嵐

花series second2


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「似てるっちゃあ似てるけど、心はこんな下品な顔してねぇし」
覆面車の助手席で田岡にもらった被害者の写真を指で弾いて、及川は嘲笑した。似てるというと背格好と何となくの顔付き。
よく芸能人のそっくりさんでTVに出てくる一般人がいるが、あれくらいに少し似てる程度だ。
「でも、関係がないとは言えないだろう?あのカウントダウン、今、何だ?7か?」
「7」
それさえなけりゃあ、及川からすればこんなくだらない殺人事件なんて1課に丸投げして、心の事に専念出来るのに…。及川は大きく息を吐いて、今日もきたあのカウントダウン入りの挑戦状を思い出した。
毎日毎日送られて来るカウントダウン。その減って行く数と被害者の数が一緒なのは偶然ではないだろう。そして、何となくでも似ている被害者。
まず間違いなくターゲットは心であり、相手は遊んでいるのは明らか。それに翻弄されるのが警察だなんて、本末転倒じゃねぇかと及川は舌を鳴らした。
「あー、そういやぁ、関西のほうでも、鬼頭組の若頭と若頭補佐が襲われたらしいっすよ」
「は?何それ、俺、知らない」
ハンドルに顎を置いていた杉山が顔を上げ、何なのそれ!と顔を顰めた。その顔に及川は小さく笑って写真を渡すと、手を仰いで”でしょうね”と言った。
「俺のルートで流れてきた情報なんで」
「お前の情報ってなに、大丈夫?合法?」
「失礼でしょ、合法だし」
多分とは付け加えず、だが、確実な情報ですよとは付け加えた。
「ふーん、まぁいいけど。で、鬼頭は誰に襲われたんだ?」
「ブラックカースっていうチーマー連中」
及川が言った名前に、杉山が露骨に顔を歪める。ないわーと言いたいのだろうが、及川とて思ったことだ。
ないわー。
「なに、そのどうにもならないネーミングセンス」
「俺がつけてんじゃねぇし。まぁ、そういう連中に襲われたらしいですけどね。でも、その連中も鬼頭の逆鱗に触れて、今、反対に狙われることになってるみたい」
「ふーん、そう。え?まさか、その連中が?」
「関わってるかどうかは知らねぇよ。でも、調べてみる価値はあると思いません?」
「まぁな、あーあ、何かややこしいことになってきたなぁ」
杉山は大きく嘆息して、再度、ハンドルに顎を置いた。
裏世界の中で、何かが起こっているのは確かだ。だが裏世界に生きる、それも仁流会ほど莫大な組織の人間が杉山たちに助けを求めることも、相談してくることもあるわけもなく。
「闇の中のかくれんぼみたい」
「ハイド・アンド・シーク?あれ、俺、イマイチだったけど」
「映画の話じゃねぇよ!」
「分かってるって。でも、俺は自分の獲物を持って行かせたりしないですからね。まぁ、とりあえず、このそっくりさんの身元調べましょうか」
どこか楽しそうな及川に辟易とした杉山は、働きますかと、ゆっくりとアクセルを踏み込んだ。

不機嫌だなと静は思った。あれから色々な話を聞いて、心と共に屋敷に帰ってきたが、不機嫌だ。
喜怒哀楽が分かりにくい男だが、怒の部分は実に分かりやすい。表情というか態度というか、怒っているぞ!とあからさまにはしないものの、機嫌は頗る悪い。
本当、こういうところはまだまだ子供だなと思いながら、ソファに転がる心が脱ぎ捨てたスーツを、普段であれば片付けろと怒るところを静がハンガーに掛け整えた。
指先滑らかな生地は、仄かに煙草の香りがする。外見だけは大人びた男なのにな。
「不機嫌になってんなよ」
さすがにムスッとした顔で煙草を燻らされると、こっちもムッとしてしまう。そこは大人にならなければならないが、如何せん静も気が長いほうではない。
心相手だと特に、いつもと勝手が違ってくるのだ。
「不機嫌なんかなってへんし」
紫煙を一気に吐き出して、チッと舌打ちをする。いや、そこだろうと。それのどこが不機嫌じゃないの!?と呆れる。
お前のそれが不機嫌でないのであれば、世の中の人はみんな菩薩だ。仏様だ、天使だ。
「あのなー、なってんじゃん。不機嫌モードオン。あれだろ、この間、お前が言ってた隠し事って結局これだったっていう話だろ」
「くそムカつく」
眞澄が帰った後、彪鷹からの説明では仁流会へ挑戦状が届いているということだった。それは眞澄の言うところによれば、鬼塚組だけでなく鬼頭組、明神組へも。
今のところ多分、届いていないのが風間組。だがこれも絶対ではない。
仁流会の長である風間組が、わざわざ挑戦状が届いていると言ってくるとは思えない。それに挑戦状でなくても嫌がらせや報復は、この世界に生きるものにはあって当然のことなので、大して気にしてないのかもしれない。
鬼塚組とてそれは同じだ。あんな隠し撮り写真が同封されなければ、相手にしなかったこと。
「大体さー、お前に話しちゃうと、引き篭もりが外出大好き人間に変貌するからだろ」
「売られた喧嘩は買うもんや」
「それはお前ルールじゃん。お前だけなら好きにすればいいけど、一応は組長っていう肩書き背負ってるんだし、いい加減自覚すれば?」
静の尤もな言い分にぐうの音も出なくなった心は、舌を鳴らしてそっぽを向いた。
ほら、そこがまったくもって子供のすることじゃんと、静の唇は弧を描いた。
「でもさ、こういうのって結構ある話なんじゃないの?」
「あ?」
「こういう、なんていうの?抗争みたいな」
「アホか、俺が知らんだけで崎山が対峙してやられたっていうんが問題やろうが」
「え?そうなの?」
静が珍しく話しに食いついてきて、ソファに寝転がる心の上に跨った。最近は大きな身体を横たえてソファを占領する心の上が、静の定位置だ。
せっかくいいソファが手に入ったというのに心がいつも占領してしまうので、心が居る時は専らこのスタイルだ。
煙草を燻らしていた心だったが、静が上に乗ってきたので吸いかけの煙草を灰皿に押しつけ潰した。すると、ゆらゆらと煙が千切れ千切れに舞った。
「崎山はあんな見た目でも、うちでは猛犬で名が通っとる。警戒心の強い猫みたいなとこがあって、背後を取られること自体が稀やのに、あっさり背後取られて捕まった」
「そうなの?うーん。でもさ、鬼頭組襲ったのと一緒なのかな?その、明神組っていうところにもいってるかもってことで、同じ連中が襲ってるかどうかは分からないんだろ?」
「まぁ、それはどうかは分からん。眞澄んとこはともかく、明神組は仁流会の番犬の役割で、武闘派を謳うほどに荒くれ者の集まり…ま、一人だけやけど」
「一人?」
静が首を傾げた。それに心は、その一人を思い出して蛾眉を顰める。あの、地に足の着いていないようなふわふわとした感じの男、万里。
ルビーの目を持ち、妖艶に笑う。その人とかけ離れた容姿で人を惑わすところがあると言われるが、とりあえず相容れない相手だ。
「心?」
「まぁ、その若頭が特に手が早い。番犬で通っとるくらいやから、あいつが特攻隊長みたいにどこでも乗り込んで大暴れや。そんなことしてるから、脅しや小さい抗争も多い上に恨みも買う。やから一概に同じ連中が、とは言えん」
「なんか、心みたいなのが他にも居るんだな」
「俺はそんな暇な事はせん」
心は大きく嘆息してそういうと、長い腕を伸ばして静の首の後ろ側を掴むとそのまま引き寄せた。
わ!とか、そう言う静の声をそのまま口付けることで飲み込んで、油断して開いた口の隙間から舌を捻じ込んだ。
「べろ、やっ…」
必死に逃れて抗議を言う口を再度塞ぐ。静がディープキスを嫌がる理由は簡単。不慣れな上に、そういう経験が浅い静は心の巧みな舌技にすぐに腰砕けになるからだ。
上に跨ってくれてるおかげで腰を揺すれば布越しに昂りかけた雄が擦れあい、静が啼く。バンバンと肩を叩いてくるが、そんなの無視して遠慮なく上着の隙間から手を差し入れ腰を撫でた。
「ひぁっ…」
「色気のない声」
心はくつくつ笑いながらも、不埒な悪戯をする手を止めることはない。静が身を捩って逃げようとしても、がっつり抱えられた逞しい腕から逃れれるわけもなく。
「ん…」
再度、口付けられて尖った胸の飾りを指先で弾かれると、もう静はくたくたになって抵抗する力もなくなってしまう。
それが悔しくて潤んだ瞳で睨みつけてみるが、反対に心の劣情を煽るだけで、ゴクッと息を呑んだ。
「いつまでも慣れへんよな」
グイグイ引っ張って上の服を脱がすと伸びる!と抗議されたが、そんなことお構いなしに起き上がって、静の肩口にキスを落とすと滑りのいい背中を撫でた。
「ここですんの…?」
抵抗するのも無駄と分かっているのか、抱き合った格好のまま静は心の首筋に額を押し付ける。そうしながら、ゆっくりと心の服の下から手を入れて、心の固い身体を堪能してくるのだ。
こういうところは男だなと思う。好きなものは触りたい。恥ずかしいとか、そういう感情よりも欲望が優先する。
やはり静はどれだけ女とも違わぬ容姿であろうとも、男らしい男なのだ。
「どこでしても同じやろ」
シャツを乱暴に脱いで床に滑らすと、皺になるのにと小言を言う。その唇を奪って、舌を絡めると鼻から抜けるような子猫のような声が上がった。
「静、舌…」
言うと、おずおずと舌が出てくる。てらてらと光るそれに舌を合わせて、絡めるとぎゅっと瞑った瞳から涙が零れ落ちた。
くちゅくちゅと淫猥な音が聴覚を刺激して、静はぎゅっと心の首に腕を回した。それが合図のように、心は真っ赤に熟した果実を親指の腹で撫で始めた。
「あ…っ、あぁ…ぁっ!んっう…!」
まるで生まれたての小鹿の様に全身を震わせて、心の耳元で啼く静に喉を鳴らして息を呑む。そういうことにはあまり関心がなかったのに、静に関しては全く別だなと思う。
抱いても抱いても貪りたい気持ちは消えないし、時々、壊したい衝動に襲われる。
心にとって静は麻薬なのだ。
「静、ベルト、外して」
耳元で囁くと、一瞬にしてカッと顔が赤くなったのが分かった。そしてぎっと強い目で睨むと、それでも渋々、心のスラックスのベルトに手をかけた。
ここまで出来るようになるまで結構かかったなと思いつつ、その手が震えているのは可愛らしいなと年上の男を捕まえて何を言ってるんだと一人笑うと腕を叩かれた。
ベルトを外してもらったので、ではズボンも脱がしてとはまだいかなくて、心は静をソファに押し倒すと遠慮なしにジーンズのボタンに手を掛けた。
「ちょ!!まっ!!」
「電気消せとか言う?乙女みたいに」
からかうように言うと、ひゅっと足が飛んできたのを片手で受けて、さすがの足癖と感心して部屋の照明をセンターテーブルにあったリモコンで落とした。
やんわりとした光だけ残した照明は余計に扇情を煽るだけというのに、静は煌々と光る灯がなくなっただけでホッとしていた。その一瞬の緩みを心が見逃す訳がなく、下着ごとジーンズを引ん剥いた。
「うわ!!お前!!」
「うわ、お前とか、ほんまに」
ムードがない。まるで今から一戦交えるような、決して肌を合わすとは思えない雰囲気。
それでも静の裸体に心の雄は成長を増すばかりで、何だかアブノーマルなセックスみたいだなと笑った。
「ま、言うとけ」
すぐに何も言えなくなると、足を拡げさせ、そこに身体を落とすと静がハッとしてジタバタと暴れだした。
「やだ!それやだ!!!」
カモシカのようにしなやかな足を掴んで身動きを取れなくして、屹立した静の雄に舌を這わすと声にならない悲鳴を上げた。
静はこれ、オーラルセックスが苦手というよりも大嫌いのようで、心もまだ数回しかしたことがない。いつも全力で暴れて拒絶するか、喚くかでそれをさせようとしない。
じゅるっと大袈裟な音を立てて吸い付くと、ビクッと腰が跳ね上がった。快感が強すぎて嫌いなのもあるんだろうなと思いながら、後ろの蕾まで濡らすのには丁度いいのにと、切っ先に無理矢理、舌先を捩じ込む。
「はっ!!あ、あ…や、だぁ」
身を捩って、心を押し退けようと伸ばした手はそのまま掴まれてしまい、もう成す術もない状態にしてじゅるっと吸い付くと、少し濃い蜜が溢れた。
雁高に歯を立てると、噛み付かれるのかと思ったのか大袈裟なくらいに身体が震えた。確かにこの状態で噛み付かれるのは想像するだけで背筋が寒くなるよなと、もちろんそんなことをせずに舌先で根元から先っぽまでゆっくりと舌を這わす。
「ひ…ぃっ、はぁ、っ…はぁ、あぁぁあ…ぁ」
視覚からやられたのか、ふるふると震える静の分身は心が舐めるたびにビクビクと跳ね上がる。それを楽しみながら拘束していた静の手の人差し指を今までペニスにしていたように吸い付くと、子猫のような声を上げて静が啼いた。
「心、も…ぅ、や……ぁ……だっ!…あ、ああぁ!っ…」
ちゅうっと指を吸い上げながら、震える足の爪先から際どいところまでをゆるゆると撫でる。それに静は、ハッハッと犬のように荒い息をあげ、中途半端に置き去りにされた熱に大きな瞳を揺らしていた。
「物欲しそう」
指先を切っ先に当ててくるくると撫でると、ビクッと腰が浮き上がる。心は静の片足をソファの背凭れに掛けると、その太ももに小さく吸い付いた。
まるで白いキャンバスに一滴だけ赤い雫を落としたようにそこは染まり、心は満足したようにぺろりと舐めた。
「し、心っ!」
切羽詰まったという感じの静に窘められ、心はフッと笑った。
「俺が舐めるのと、自分でするの、どっちがええ?」
「…え?」
何を言っているのか、いまいち理解出来ない様子の静は瞳を揺らしながら心を見て、え!?とその表情を困惑のそれに変えた。
「やだ!バカ!!自分でとか!!」
「じゃあ、決まり」
心は犬歯を見せて笑うと、ソファに掛けた足の膝裏に舌を這わした。
「あ!!ま、待ってっ!や、あれは、やっ!!」
「ん?あれって、これか?」
心は惚けた顔をして、静の赤く熟れた蕾を指先で撫でた。
「っは!!ダメ、ダメっ!」
「静は、ここやられながら舐められると、すぐイクからな」
心は一層悪い顔をして、壊れたオモチャのように頭を振る静を見た。だがその表情とは裏腹に、静の雄はそれを待ちわびるかのようにトロトロと蜜を零し心の指を濡らす。まるで、これからの行為の準備でもするかのように。
くちゅっと音を立てながら骨張った指を第一関節まで挿れると、静の身体は快感からかビクビクと震えた。
「熱い」
まるで熱でもあるかのように中は熱く湿り、少しだけ挿れた心の指をぎゅうぎゅうと締め付ける。その中に入る事を想像しただけで、肌が粟立った。
挿れた指を抜いて、その周りの肉をなぞりながら蟻の門渡りを圧し潰すようにすると、鼻から抜けるような甘い声が漏れた。
「し、ん…っ、もう、やだって…ああ、あっ」
声が震えている。放置しすぎた静の熱はぱんぱんに腫れ上がっていて、これはこれで可哀想だなとひくひくと開閉を繰り返す切っ先に舌先を捩じ込んだ。
「ひ…ぃ…っあ…、あ…ぁぁぁ…!あぁ、あ……ん…」
ゆっくりと嚥下するかのように銜え込んで、そうしながら後ろの蕾に指を捩じ込んだ。心の涎と静が零した蜜が淫猥な音を響かせる。
心の指がゆっくりと出入りを繰り返すたびに、静の雄からは止めどない蜜が溢れた。気持ちいいと、口に出来なくても静の身体は心が緩やかに与える愛撫に打ち震えた。