花の嵐

花series second2


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何の引っかかりもなく、静の密壷は心の指を飲み込む。それは美味しそうにゴクゴクと。
その飲み込みに気を良くして指を抜き差しすると、悲鳴があがった。
「だ……っめ……!!両…方っ!は…ぁ…だめっ!あぁあ!あああぁぁっ!!」
一気に静の雄が口の中で体積を増し、粘液を零した。それに吸い付きながら、丁度ペニスの裏側のしこりを圧し潰すと、一層、声が強く高くなった。
ダメだと言いながら、腰を揺すってくるのは相当な快感なんだと思う。それに付き合うように、口を窄めてやると身体を捩って甘い声を上げた。
「だ…め、…あっ、出…る、も……う、出……ちゃっ…ぅ」
顔を覆って、首を振る静に促すように心は顔を上下させながら、後ろを犯す指を増やした。ぎゅうぎゅうと心の指を咀嚼するそこは、もっとと強請るように柔らかく、心の雄を求めて蠢いている。
そろそろ限界かと静の屹立の切っ先に舌を捩じ込むと、後ろを犯していた指が痛いほど締め付けられ、咥内に苦みを帯びた蜜が吐き出された。
「う……ぅあぁ……あああっ!ひ…っあ…ぁあ、ぁああ…あ」
ぎゅうっと足の指を丸めて、身体も丸めて、その快感をどうにか受け止めるべく静が啼く。
その欲情を嚥下して、なかなか不味いもんだなと思いながら、ようやく口を離すと身体を震わせながら静がどうにか呼吸をしていた。
そんなくたくたになった静を置いてウィスキーを並べている棚に行くと適当に一本取り出して封を開け、そのまま口を付けた。
そして口の中の苦味を取って、ソファで息も絶え絶えで転がる静の頬にキスをすると、パチンと背中を叩かれた。
「いやって、言った、のに…っ!」
「気持ち良さそうやったけど?」
言うと、更に殴られるのでさっさと手を掴んでウィスキーを口に含むと、それを口移しで飲ませた。
「…!!!…っ!ゲホッ!!!げっほっ!!!!強い!!!何それ!」
「あ?あー、カリラ 25年」
何だろうなと、初めてラベルを見て何かを知る。無頓着な心らしいところだ。
「か、りら…アルコール、…43%じゃねぇか」
ラッパ飲みするような、そんな安い酒じゃねぇとBARの店員らしいことを言いながら、ゲシゲシと心を蹴ってくる。
心は酒なら何でもいいので、それがどういうあれなのかどうなのかという彪鷹のように拘ったりはしないので、そんなもんか?と、また静に口移しで飲ませた。
「ったく、この、ろくで、なしっ!」
「ろくでなして結構」
憎まれ口を叩きながら、身体の力の抜けた静の身体を抱き上げ自分の上に股がらすと、酒のせいで赤みを帯びた肌に吸い付いた。
「あー、もう、やだ、力入らね…」
よっぽど悔しいのか、緩い力で心を叩くとふらつく身体を抑えるためにか首に腕を巻き付けてきた。珍しい事だ。
そうしながら、目についたのか心の鎖骨にそっと口づけてくる。それにふっと笑いそうになって、心は静の柔らかい髪に鼻を埋めた。
「静って、ええ匂いがする」
何言ってんだ、お前。と言わんばかりの顔をして見てくるので、そのままぎゅっと抱きしめるついでに柔らかな尻臀をぎゅっと揉むと、ぎゃっと色気も何もない悲鳴が上がった。
今まで散々セックスはしてきたが、こうして話をしたり戯れ合ったりするのはなかったなと、ムードも雰囲気もぶち壊す今を楽しむ。
尻臀を揉みながら細い首筋に吸い付いて、軽いキスを交わす。ちゅっちゅっと可愛らしい口づけを交わしながら、長い指をすっかり柔らかくなった密壷の中に入り込むと、静が喉を曝して息を吐いた。
「やべ、気持ちええ」
温かい中にもう一本指を入れ、少しづつ動かすと淫猥な音が部屋に響いた。そのはしたなさになのか、それとも背徳感なのか、静は心の肩口に顔を埋めて小さく身体を震わせていた。
「気持ちええって言うたほうが、断然、気持ちええのに」
「あ、っ…!、や、絶対、言わな…」
強情なのは誰よりも知っている。ならばと、心は自身の雄を取り出して静の濡れそぼったそこへ宛てがえた。
「やだ!!早い!!」
驚いた静に意地の悪い顔を見せて、心は無遠慮に静の中に入り込んできた。
焼けるように熱いそれは、どんどんと静の中に入り込んでくる。息を詰めると苦しいのを知っている静の身体は、どうすればその衝撃を和らげる事が出来るのを熟知していて、静が意としなくても必死に息を吐いて、その衝撃を受け入れた。
「ひっ…ん、ああ、」
入り込んだ心も、飲み込まれそうな愉悦の嵐に堪えるのを楽しみながら、静の唇を貪るように奪った。
舌を絡めながら静の身体を抱きしめ、根元まで雄を捩じ込むと、心はフッと笑った。これが一番安心するなんて、昔の自分が聞けば卒倒しそうだなと思いながら、またギュッと静を抱きしめた。
「馬鹿っ…!苦し…!」
「あ、悪い」
心は腕を放して、静の腰を支えるようにして手を添えた。顔を見られたくないのか、静は相変わらず心にしがみついたまま。
これはこれで拷問だ。
「で、どうする?…俺は、このまんまでも気持ちええけど?」
少し腰を回すと、静が息を詰めた。気持ちはついてきていないとはいえ、身体は正直なもので快感にどっぷり浸かっている。
男に組み敷かれて啼く自分が許せないとしても、これはこれで…。
「馴れてもらうしかあらへんからな」
心はそう言うと、下から静を突き上げた。
「うぅぅ…わ……ぁ!ああぁっ!あ…ぁ…あ!ん…っ」
急に乱暴にされたものだから、静は驚いて心から離れた。心はその静の腰を掴んで身体を起こすと、静をセンターテーブルに押し倒して腰を穿った。
「うっ…あっ…!あっ!……ぁ!あぁあ……!ああ……あ!んん…!」
ぱんぱんと肉と肉のぶつかる音が部屋に響く。静の中は必死に蠢いて心の雄に纏わり付く。
思わず持って行かれそうになるのを奥歯を噛み締めて耐え、長い切っ先で最奥を突くと静の濡れそぼったペニスから、何度か密が吐き出された。
「やべ…」
ぶるっと寒気にも似た快感が身体を駆け巡る。ぽたっと落ちた汗が、静のきめ細やかな肌を川の水のように流れていく。
男の、何の面白みもない身体のはずなのに、心の興奮は収まる事なく静の中でその体積を増した。
「はぁ…あ…ああぁ……ぁっあぁあ…!あ…ぁん…ん…」
まるで凶器のようなそれに蹂躙されているのに、喘ぐ事をやめられない。静の身体は快感に震え、ペニスは何度か蜜を吐き出している。
身体の中に入られる事なんて、男に生まれたのなら経験することがない方が大方だろう。だが今は男の剛直を体内に招き入れ、それに悦んでいる。
背徳感と淫楽に囚われた二つの感情が交錯して、気が狂いそうになり、自我を保つためにも心の腕に爪を立てた。
「だ…っめ…、だめ…っ…!!イ…クっ、ああぁぁ…、あ…ぁぁぁ、心……っ!」
ざわざわと肌が粟立つ。暴れだしそうな身体を抑えようと、静の足は無意識に心の腰に絡み付いていた。心はそれに笑って、静の中にある心しか触る事の出来ない一番気持ちがいいところを熱棒の腹で圧し潰してやると、大袈裟なくらいに静が身体を跳ね上がらせた。
脳天まで一気に突き上げられ、背骨が溶けそうな快感に押し上げられた静はボロボロと涙を流し、抑えきれなくなった感情を吐き出すかのようにあえかな声を上げた。
「あ…ぁ…あぁあっ!ああ…あっ、んん…っ!う…ぅ…っ、イクッ…イクッ!イク…」
ぎゅうっと中を犯す心の熱を締め上げ、静は劣情を吐き出しながら果てた。その締め付けに心も身体を震わせ、静の中を無遠慮に汚す。
どくどくと中に吐き出される感覚に震えながら、静は倒れ込んできた心の髪にそっとキスを落とした。

星 紫咲希 ほし むらさきはCachetteのカウンターでシェイカーを振りながら、まだ覚醒しきってない頭を振って深く息を吸った。平日の客入りは休日に比べると少ない方だが、接客という職が星の負担になっている。
星は、その人目を引き過ぎる容姿のせいで、常に好奇の目を寄せられてきた。そのせいで、いつしか人と関わるのが苦手になっていった。
なのになんでこうして接客業とか選んじゃうかなと自分でも思うが、新卒でもない星が仕事に在り付くのは難しく、更に公に出来ない事情がある人間は夜に動くのが都合がいい。
だが、それ以上に星を此処に留めるのは時給である。現金ではあるが死活問題の時給、それがCachetteは今まで経験したバイトの中ではずば抜けて良い。更に、破格である上に高待遇である。
これを辞めるとなると確実に仕事の掛け持ちを増やさなければならず、それも2つやそこらでは補えないものだ。それはさすがに避けたい。
星は見た目から仕事仲間という名目で近づいてくる輩も多く、それに辟易としていたときにCachetteの求人を紹介された。
また一からの人間関係の構築かとうんざりしたが、Cachetteのスタッフはオーナーの早瀬が率先してそうであるように、プライベートで踏み込まれたくない領域には絶対に踏み込んでこない。
過去に何をして、どこから来て、今、どこに住んでいるのか。その全てにまるで興味がないように、誰一人として聞いてこないのだ。
時給や待遇よりも、星が気に入っている一番のところだ。
「今日は、上の空?」
「あ、すいません」
ついつい、目の前の客を放ったらかしにしていた。これも星にはよくあることだ。そんな星を柔らかい表情で見る男は、進藤と名乗った。
ここ数ヶ月前から足繁くCachetteに通う常連で、輸入家具だかなにかを取り扱う会社の社長だとか。いつもフラリとやってきては、必ず星の前に座る。
大して面白い話も出来ないのに、進藤は静かなのがいいよねと星に気を遣わさないようにして酒を嗜むのだ。
「そういえば、この間、星君以外の人に相手してもらったよ」
「え?ああ、雨宮、ですか?」
「いや、えっとね、吉良くん。星くんもだけど、すごく可愛い子だよ」
「は、はぁ」
吉良っていうと、雨宮の彼氏だか彼女だかのあれかと、顔も知らない男のことを想像した。
Cachetteは基本的に決まったシフトで動くスタイルだ。なので、雇用されていても面識のないスタッフは多い。
吉良もその一人で名前だけは知っているが、どんな男かは全く知り得なかった。知っているとすれば、あの雨宮と付き合っているという、逢う前にそれどうなのという、とんでも情報だけだ。
手を出すなよと忠告に意味を込めて教わったが、雨宮を敵に回すような度胸は星には1ミリも持ち合わせてはいない。
初めて雨宮に逢った時は自己紹介しただけで殴られるんじゃないかと思ったほどに、目つきも鋭く口調も荒かった。だが酒のことを色々と教わっているうちに、そういう性格だと分かったものの…。
「吉良くん、本当は厨房なんだってね」
「ああ、厨房スタッフなんですけど、外が回らない時は狩り出されます。俺が店に入る日は結構空いてるんで、そういうの少ないんですけど」
聞いた話ではそんな感じ。聞きかじった情報だけで悪いが、それ以外、逢った事もない人間のことを聞かれると困るなとカクテルグラスにシェイカーの中身をゆっくりと注いだ。
琥珀色のそれを進藤の前に置くと、綺麗だねと進藤は微笑んだ。
「あ、それでね、マッカランを星くんに作ってもらうようにって」
「え?俺に?吉良がそう言ったんですか?」
「そう、彼は良い酒を飲むなら、酒のルーツを教えてもらった方がいいって。自分はさほど酒に詳しい訳じゃないから、酒に詳しい人間に入れてもらうのが一番だってね」
そう言ってウィンクしてくる進藤だが、星の心中は穏やかでない。何なら、逢ったことない吉良 静に対して、何をハードル上げてくれてんの!?と文句を言いたいくらいにだ。
酒のルーツってなに!?しかもマッカランのルーツって、そんな掘り下げたことまで聞いてねぇよ!と引き攣った笑顔を見せながら、マッカラン、飲みます?と聞いてみた。
「マッカラン、俺が入れましょうか」
星の言葉に被せるように聞こえた声は、少し怒気を含んでいるように思えた。
星の横から伸びた腕は、捲られた袖から鍛え絞られているのがはっきりと分かる腕だった。男独特の筋が浮かび上がり、惚れ惚れするようなフォルムだ。
その腕を辿って行けば、今しがた噂をしていた男の恋人である雨宮が居るものだから、星は”へ?”と間の抜けた声を上げた。
「あ、雨宮…?」
「あ、君が雨宮君!?うわー、スゴイなぁ、今日はなんてラッキーなんだ」
進藤は嬉々とした表情で雨宮を見ると、軽く手を叩いた。
「星、お前、向こうの客の相手しろ」
有無を言わさぬ雰囲気に、星は馬鹿みたいにコクリコクリと頷いた。あまり付き合いのない星でも分かる。
雨宮が、何だかキレている。
「あ…では…」
「またね、星くん」
ウィンクを飛ばされ、苦笑い。
良い人なんだけど、あの外国…、イタリア人みたいなのどうにかならないかなと思う。正直、対応に困る。
しかし今日は雨宮のシフトの日ではなかった。ヘルプに入ったとしても、客入りはいつもの平日と変わらず回せないというわけでもない。
不思議だなと思いつつ、進藤はずっと雨宮のサーブを受けたがっていたので良かったなと思った。
機嫌は悪いみたいだけど…。

「ふむ、ではマッカラン、いただこうかな」
進藤は佇まいをなおして、お手並み拝見とばかりに襟を正した。だが、雨宮はその進藤に侮蔑の視線を送り、カウンターに両手をついた。
「”しんどう”って、神に童って書くんだろ?」
囁くように言うと、進藤は相好を崩さずに顔の前で掌を合わせて、バレた?と舌を出した。
「どういうつもりだ」
「ちょっと待って、何か誤解してないかい?」
進藤は慌てて手を前にして頭を振った。
「誤解だと?」
「いや、君が怒るのも無理ない。確かに昔は鬼塚組と交えたことがあるからね。でも、僕は兼ねてから極道に向いてない男でね。君のように強い腕もないし、裏世界で生きて行けるほど裁量もない。組を点々として、最後、破門状が出回ってねぇ」
「ハッ、今は堅気だとでも?」
雨宮は鼻で笑って、ふざけんなと呟いた。
「調べてくれれば良いよ」
何も出ないよと進藤は笑って、頭を掻いた。そして、バレちゃったなーと言いながら、星の用意したカクテルに口をつけた。
「うちにはあんたが来生と組んで、良からぬことをしようとしているって情報がある」
「え!?来生と!?冗談!」
進藤は卒倒しそうになり、慌てて身体をもとに戻した。
「君、来生ってどんな人間か知ってるかい?あれはね本当に狡賢い嫌な男だ。汚い言葉で言わせてもらえば、下衆だね。第一、僕は来生とは組む気はない。そもそも足を洗っているから来生の連絡先も知らないよ。多分、僕の名前を出せば動くと思ったんだろう」
「動く?」
「佐野だよ、佐野彪鷹。堅気になったといっても、完全に裏世界と切れるほど簡単じゃないんでね、情報は嫌でも入ってくる。戻ってきてるんだろ?」
「……」
何も言わない雨宮のそれを答えと取ったのか、進藤はうんうん頷いて、久々に逢いたいなぁと言いながらカクテルを飲み干した。
「君は知らないだろうけど、僕、昔に彼とやり合ったことがあってね。その頃から、すごーく恨まれてるんだ。あれはそもそも、僕というよりもそのときに所属してた組が…。いや、まぁこれはいいや。だから、僕は無関係だよ」
「じゃあ、なんでこの店に現れたり、俺に会いたがったり吉良に近づいたりした」
「昔にね、彼、佐野彪鷹とやり合ったよしみで伝えたくてね。李王暁が日本に来てるよって」
進藤が不敵な笑みを浮かべた。ここへ来て、初めて剥がれた紳士の顔というべきなのか、それに雨宮は目を細めた。
李王暁 リー・ワンシァォ(Li Wangshan)?あの李王暁?…死んだって聞いたけど?」
「はは、Thanatosは死なないよ。元々、死んでるんだから」
進藤は心底愉快そうに笑うと、空になったカクテルグラスを手で弄び、心配だねと呟いた。
「心配も何も、李王暁が何の目的で来てるのかも分からねぇだろ?それとも、あんたは何か知ってるのか?」
「まさか。ふふ、まぁ、疑われても仕方がないか。でも、僕は純粋に佐野彪鷹に伝えたかっただけなんだよね。本当は直接、逢って話をしたかったけど、多分、僕は彼に逢った瞬間に殺されそうだからね。ただ、これは本当に忠告だよ。何の目的で来てるかは分からないけど、李王暁…Thanatosが日本に舞い降りてるってことは相当用心しないといけないよ」
そう言って、進藤は元の紳士的な表情に戻り、上品な唇で弧を描いた。そして、マッカラン、お願い出来るかな?と雨宮に言った。