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「うわ…っ!」
引き攣るような痛みに、御園が声をあげた。
潤滑油等の滑りのないなか、眞澄の指が容赦なく入り込む。さすがの御園もその痛みに暴れた。
「ま、眞澄っ!」
逆鱗に触れた眞澄が何をするのか、知りすぎている御園には想像が出来すぎて思わず逃げをうつ。
だがその御園の腰を掴んで捕まえると、梅蕾に突き立てた指をぐるりと回した。
「ぅわっ!!あああ!!!」
御園が鳴くと、眞澄は満足したように口角を上げた。そして御園の身体の上に乗り掛かると、赤く色づく耳朶に音がするほど噛みついた。
「あっ!!」
口の中に鉄の味が広がる。眞澄はそれに笑うと、顔を放した。御園の耳朶からは、赤い血が溢れていた。
「…っあぁ」
梅蕾に突き立てた手と反対の手を、御園の身体の下に潜らせる。手に当たる感触に、眞澄は喉を鳴らした。
「ひどくされて興奮しとるんか?変態」
御園の耳元で囁くように言うと、滴る血をまた舐めた。
「…無茶、せんで」
吐息と共に吐き出し、拳を握りしめる。相当な痛みがあるのだろう。その拳が微かに震えていた。
「…謝れ」
「え…?」
眞澄の言葉に御園が首を捻り、顔を向けた。
その視界は遮られているために眞澄の顔は見えない。だが眞澄は目隠しを外すことなく、もう一度、同じ言葉を吐いた。
御園の顔は酷く、青白かった。御園は基本的に痛みには強いが、こういうサディスティックな痛みには弱いところがあった。
殴られ蹴られるのは構わないくせに、加虐性欲の行為には弱い。眞澄はパラフィリアではないが、御園に対してはどうしても自分を抑え込む事が出来ない。
自分のものだと、認識するためか…?
眞澄しか知らない、御園の身体。あの日から囚われた、欲して止まない身体。
眞澄はそっと御園の髪に唇をつけた。そして、ようやく目隠しを外した。
そこには御園のいつもの寝ぼけた様なやる気のないあの瞳はどこかにいっていて、あるのは痛みで潤んだそれだった。
この目が、御園を幼く見せているのかもしれない。そして大した事のない男だと思わせる、一種の武器。
「このまんまワシのん挿れるか?ん?」
グッと指を奥に進め、知り尽くした中の秘宝に指先を当てた。
「あ、ああっ!!!」
「まだ指一本。ワシの入れたら裂けるやろうな」
眞澄の言葉に御園の目が恐怖に揺れた。
「謝れ」
低い声で言い、二本目の指を梅蕾に当て力を入れた。
「いや!痛い!!いやや!堪忍!!眞澄っ!」
「ちゃうやろ?あ?」
「は…ぁ…。ご、ごめんなさい、ごめん…眞澄」
ホロホロ涙を流しながら、御園が懇願した。それに眞澄はゾッとするほど興奮した。
「エエ子や」
ずるりと梅蕾から指を引き抜くと、御園の白い背中が震えた。そして少し安堵した吐息。
眞澄はその御園の髪を掴むと起き上がらせ座らせ腕の拘束を解いて、軽く口づけた。
「一人でしろ」
御園は眞澄の言うことに忠実だ。きっと眞澄が死ねと言えば死ぬだろうし、誰かを殺してこいと言えば迷いなく殺す、眞澄の凶刃。
それを証拠に、御園は自分の萎えたペニスを掴んでゆるゆる扱き始めている。
眞澄はそのままナイトボードに手を伸ばすと、備え置いてあるボトルを手に取った。
「後ろ、ちゃんとせな痛いんはお前や」
言えば自慰する反対の手を伸ばして、掌を広げた。眞澄はそこにローションを垂らす。御園はそれを手で温めると、先程まで眞澄の指が突き刺さっていた梅蕾にゆっくり自分の指を埋めた。
「いっ…ん…ぁ、はっ、ん」
御園の甘い声が部屋に響く。眞澄はそれに舌なめずりをした。
性欲とは縁がなさそうな外見を持つ御園が、自慰しながら後ろの梅蕾に指を入れ忙しなく動かす。虚ろげな劣情的な目が、うっすら開いて眞澄を見据えた。
「は…ぁ、あ、眞澄ぃ…」
赤い舌を出して喘ぐそれは、眞澄の背中を押した。眞澄はベッドに膝立ちになると、御園の顔の前に腰を持っていく。
眞澄がベルトをスラックスから抜き取りボタンを外せば、当然のように御園が顔を寄せた。ジジッと音が鳴る。御園が歯でジッパーを開ける音だ。
寛げた前、盛り上がるそれに下着の上から舌を這わせた。そうしながら、自慰の手も孔を弄る手も休めることはない。
「んっん…っ、はぁ」
涎で塗らした下着に噛みつきずるりと下ろせば、すっかり形を変えた雄が顔を現す。赤く色づく亀頭を舐め、口を開けて銜える。
眞澄は御園が舐めやすいように、ずるりとスラックスと下着をずらした。
「はっ…こんな男のもんを、口に含んで…、な。斎門…」
女を抱けないように身体に植え付けてきた、抱かれる側の快楽。
今更、愉しませる側になれる訳がない。分かっているのに、言葉にしても不安は消える事はない。
「お前は…もう、女を愉しませる術も忘れたやろ」
口をすぼませ、雁首に舌を巻き付け裏筋を刺激する。
将来は仏道に入るつもりで居た男。あのままいけば順風満帆だった人生。だが、その道を狂わした。
極道に引き摺りこみ、更に身体を開かせた。だが、御園は拒まなかった。
御園の家に乗り込み、人拐いのように拐った時も身体を開かせた時も。初めからずっと、御園は拒むことはしなかった。
「はっ…」
下腹に力を入れる。御園の舌が眞澄の尖端の割れ目を抉る。
視線を落とせば、御園の扱くペニスはぐちゃぐちゃに濡れていた。
「イキそうか?」
眞澄が聞くと、御園はうっすら目を開けた。
「…はぁ…イけ」
眞澄が言うと、まるでそれがストッパーだったように御園は震えながら達した。
迸る熱がどんどん溢れる。くぐもった声を出して、目を堅く瞑る。歯を立てないようにしながらも、それがツラいのか顔を歪めた。
眞澄は御園の前髪を掴み、口からペニスを引き摺り出すと数回扱いて御園の顔に浴びせた。
「…は、ぁ、っあ」
御園が口を大きく開けて酸素を求めた。眞澄が前髪を離せば、御園はそのままベッドに倒れた。
「…はぁ」
眞澄はスーツを脱ぎ捨て全裸になると、ベッドに転がる御園の足首を掴みあげた。
俯せにして、腰だけを高く上げさす。後ろから攻めると、征服欲が満たされるのは人間に植え付けられた古来、動物だった時の本能からか。
「ま、待って!まだ…!」
腰を曲げて後ろを向いて、眞澄を止めようと手を伸ばした。
だが眞澄はそんな静止も聞かずに、きちんと解していないそこに再び頭を擡げたペニスを押し当てた。きゅっと入り口が絞まり、眞澄の侵入を拒んだ。
「罰は罰」
「眞澄!!ああああ!!!!」
ぐっと腰を穿つ。痛みは眞澄にもある。だが歯を食いしばり、どんどん腰を進めた。
御園は身体を強張らせて、喉を反らし痛みに耐えていた。
「…これに、懲りたら二度とワシを怒らすな」
どんっと一気に腰を進めれば、御園の悲鳴が上がった。急に滑りがよくなった。繋がった箇所を見れば赤い血が見えた。
たまに、御園を殺したい衝動に襲われる。なぜだ?眞澄にはそれがなぜだか分からない。分かろうともしない。
「…ひっ、ま、眞澄」
白い背中が反り上がり、溝が出来る。
「御園」
呼んで背中に舌を這わせ、肩に噛みついた。次は、甘く。
「うぅ…眞澄、眞澄…あっ」
御園の腰が揺れだした。痛みが飛んで快感が勝り始めたのだろう。甘く鳴くのがなによりの証拠だ。散々、抱いて狂わした。痛みの向こうにある快感を、身体が覚えているのだ。
眞澄は御園が望む通りに、中の秘宝を己の切っ先で突き始めた。
「はっ、ぅう…眞澄、眞澄」
呼びながら、耐え難い蠕動が眞澄を襲う。少しでも油断すれば、一瞬にして持っていかれそうだ。ぎりっと奥歯を噛み締めて堪え、御園を攻め続けた。
血とローションが混ざりあり、ぐちゃぐちゃと卑猥な音が響く。肌と肌のぶつかる音と荒い呼吸と啼き声。腰を回して、奥を突いて、御園の悶える場所をひたすら攻めた。
「は、あっ、あぅ…や、んーっ!ぁ、眞澄、イク…イク、なぁ、ええ?眞澄、ま、眞澄っ」
返事の代わりに無茶苦茶に腰を穿つ。それに御園が逃げた。
「は、はっ、あかん、あっ!!眞澄っ!あ、あん、あっ…あー!!!」
悲鳴に近い声で鳴いて、御園の身体が崩れた。ビクビクと痙攣する御園の中から、まだ達していない雄を抜く。そして身体を反転させると膝裏に腕をかけた。
「眞澄、堪忍…もう堪忍」
力の入らない手で眞澄の身体を押したところで、眞澄が聞くわけがない。
「自分だけイッといて?前も触らんとイケるんやさかいな、女なんか抱かれへんな」
御園が何か口にしようとしたが、眞澄は構わず御園の中に入り込んだ。
「っひ…ぅん…ぁあん」
本来はそういう役割をする場所かの如く、眞澄のペニスを飲み込む孔。中は焼けるように熱く、壁は絶妙な締め付けを起こす。
イッた後の中は一瞬の気の緩みを許さない。
「あっ、ぃ…あぁ」
目許が真っ赤に染まり、白い脚が宙を蹴る。波のように襲うエクスタシーに付いていけていない。
眞澄はそれを見て笑った。
「気持ち、ええやろ…あ?」
「い、いい…眞澄ぃ…はっ、あ」
腰を動かしてやれば、快感に震え泣く。眞澄は自分に組敷かれる御園に安堵した。そして、満足した。
気持ちいいと泣きながら達し、艶かしく腰をくねらせる。普段は惚けた男も今は快感に身体を震わせ女のように啼く。白い足を跳ねさせながら、オルガズムに酔う。
眞澄しか知らない顔。それが眞澄には何よりも至福で、何よりも悦楽だった。
「わやし過ぎやて。身体壊れたら、どへんしてくれるん」
御園は指先、大袈裟に言えば髪の毛一本も動かすのが億劫な身体をベッドに寝転がしたまま、悪態づいた。
その隣に寝転がる眞澄は、御園の身体を引き寄せると頭を抱き寄せた。御園はふふっと小さく笑うと、猫の様に眞澄の身体に擦り寄り胸元に口づけた。
「元はと言うたら、オマエが悪い」
眞澄は悪びれもせず、責任転換をする。久々に聞く、独特の緩やかな京弁。仏の道から離れて、何年も経っているのに消えない香の香り。
それに安堵しているなんてどうかしていると思いながら、目を閉じる御園の髪を撫でた。
少し身体が熱い。きっと明日は高熱が出るだろう。そして動けないだろう。久々にも関わらず、無茶をした。
泣いて嫌がる御園を押さえつけ、何度も犯して意識を飛ばさした。そのままずっと犯して覚醒させての繰り返し。だが、これでいいのだ。
「オマエはワシに呪いをかけとる」
「呪い?えらい、けったいな事を言いはるねぇ。俺が眞澄に呪い?」
「呪詛や」
「呪詛?そりゃオモロいわぁ。そへんやな。ほうかもしれんな」
言って、御園は楽しそうに笑った。
御園しか見えない、御園しか要らない。世界がなくなってもいい。オマエが居れば、こんな世界どうでもいい。
この香の香りを嗅いだ時から、呪縛にあっていた。愛していると言えば、オマエはきっと当然の様な顔をするんだろうな。
思いながら、眞澄は御園の髪を撫で続けた。それに、御園は至福な顔をして目を閉じた。