翌日、眞澄が学校からマンションに戻ると、部屋の前に人影を見つけた。
「しそこねたか?」
ドアの前に座る御園に問いかけ、鍵穴に鍵を差し込むと御園はゆっくり立ち上がった。横目で見ると、綺麗な顔をしていた。
昨日、眞澄が殴ってつけた傷以外、御園の顔にはかすり傷一つなかったのだ。
「手ぇ出して」
眞澄は御園の言葉を無視して部屋に入る。御園はため息をついて、それに続いた。
何もない殺風景な部屋。その部屋のリビングに置かれたロングソファに腰かけると、眞澄はブレザーを脱ぎ捨て煙草を銜えた。そして、ようやく手を出した。
すると御園は眞澄の掌に、小さな金のピアスを落とした。
「大塚くんのピアス」
「どないやった?」
眞澄が聞くと、御園は眞澄の足元に開いたスペースに座り、右腕の袖を捲りあげた。
眞澄が思った通り、細い腕に絡み付くようについた筋肉が顔を出した。その腕に、赤青い痣がついていた。
「頑張りはったけど、これが精一杯やったみたい」
「お前の見た目で怯んだんやろ」
「かもしらん。不意討ちしてへんねんけど」
「何て言うてん」
「鬼頭眞澄の遣いで来たって。眞澄、名前言うたらあかんて言うてへんし、俺には大塚くんに何の恨みもあらへんさかい」
「大塚 慶吾や、光新会の幹部の息子や」
「あー、知らへんわ。名前言うたらあかんかった?」
それほど興味がないのか、御園は眞澄の漂わす煙を猫の様に眺めていた。
「ガキの喧嘩に出てくる組やない。大塚はワシによぉ喧嘩売ってきたさかい、買うたったんや」
「まあ、眞澄が出張るまでもなかったかもしらんわ」
ふわりと、香の香りが漂う。生まれてからずっと香の中で育ったからか、身体に染み付いているのか、眞澄はすんと鼻を鳴らした。
「…ああ、匂う?」
御園がそれに気がつき、自分の制服に鼻を付けた。
「縁がないからな」
「せやね、極道が神に何を祈りはるんか…神仏の類いは似合いはれへんわ」
「お前、何も言わんのか」
「ん?何が?」
眞澄は掌で転がしてたピアスを近くにあった屑籠に投げ入れると、テーブルの灰皿に煙草を押し付けた。
そして御園の腕を引っ張り自分の身体の上に倒すと、髪に鼻を押し付け御園の香りを楽しんだ。
「お前と口きいたんは昨日が初めてや。で、お前は今日、言われた通り大塚を
眞澄の言葉に、御園は”うーん”と唸った。
「眞澄はずっと俺を見とった。まあ、御仏さんに仕えてるさかい、人傷付けるんはあかんけど明日の座禅で謝ったらよろしいし」
「見られとったら誰にでもするんか」
眞澄の苛立った様な言い方に御園は驚いた顔を見せたが、それはすぐに微笑みに変わった。
「眞澄…かいらしいなぁ。ああ、殴らんといてや。顔はおうじょうするねん、色々聞かれるさかい難儀や。どつくなら見えんとこがええわ」
離れようとする御園の頭を、眞澄は掌で押さえた。御園はそれ以上、力を入れて逃れようとはせずに、そのまま眞澄の鎖骨辺りで大人しくした。
「どつかん…多分、もうどつくことない。いや、約束は出来ひんな。お前は俺をイラつかすさかい」
「殴りたかったら殴ったらええけど…。眞澄が俺を欲しそうにしとったさかい、応えただけや」
「……」
「正直、俺にもよぉ分からん。でも、俺には大塚くんやれる腕があったし、応えてみたい思うたさかい応えただけ」
御園は顔をあげると眞澄の首に猫のように擦り付き、唇を当て吸い付いた。眞澄は御園の背に手を回し、それをただ受け入れた。
御園の吸い付いた箇所が、ジンッと熱を持った気がした。
「御園…服脱げ」
「…全部?」
「全部」
御園は身体を起こすと、眞澄に跨がったままブレザーとシャツを脱いだ。寺の息子だというのが信じられないくらい、鍛えあげられた腹筋が顔を出した。
御園は躊躇う事無くズボンと下着を脱ぎ捨て、全裸で眞澄の腰に跨がった。
「…血みどろは堪忍してほしいわ。明日も朝から座禅あるし、座られんようなるんはおうじょうする」
「入れたりせん」
眞澄は御園の萎えたペニスをゆっくり掴むと、手先で筒を作って扱きだした。
御園はそれを微笑みながら見ていた。やがてペニスは熱を持ち固さを持ちだし、先っぽから涎を滴出す。
眞澄はそれを指の腹で先端に塗りたくりながら、手の動きを早めた。グチャグチャと卑猥な音が静かな部屋に響き、雄の匂いとお香の香りが二人を包んだ。
眞澄の上で、はあはあと忙しない息継ぎをしながら、御園は天を仰ぐように顔をあげた。御園の内股がわずかに震えた。
「あか…イクッ」
御園が小さく訴えると、身体が一瞬浮き上がり、ペニスが震えた。吐き出された欲望は、眞澄の手で受け止められた。
眞澄は掌についたものを近くのティッシュで拭いさると、上半身を起こし、平らな胸に赤く色づいた乳首に舌を這わせ、吸い付く。
そうしながら、自分自身の前を拡げ屹立したペニスを取り出した。
「やっぱり入れたい」
眞澄が言うと、御園は嘘つきやなと笑いながら眞澄のシャツを脱がせた。
御園の乳首に歯を立てると、御園の身体がビクッと震えた。
眞澄は御園の臀部を揉みながら、テーブルにあったハンドクリームを手に取り、中身を出すと御園の窄まりに塗りつけた。
御園が小さく息を吐くのを見て、ゆっくり指を埋め込んだ。想像を絶する狭さに、眞澄は唇を舐めた。
招かれざる客を追い出そうとするそこに力を込めた指を動かしながら解し、また新たな指を埋め込む。
そんな事を繰り返していると、御園のペニスが再び勃ちあがっているのが見えた。
眞澄は指を引き抜くと、自身のペニスを御園の窄まりに押し付け、御園の腰を掴む手に力を入れた。
「はっ…ああ、っあ…!」
「…っつ」
絡み付く。それこそ、喰われているような感覚が眞澄を襲った。受け入れる御園の苦痛と負担は、尋常なものではないだろう。
それでも、御園の細胞は愉悦しているかのように眞澄のペニスに絡み付く。それが言い様も無い程の幸福に満ちていて、自分の屹立した狂気で犯される御園の顔を見た。
御園は喉を反らして、はらはらと落涙していた。眞澄は構う事無く、下から突き上げる様に腰を動かした。
「あ、あ、あ、眞澄!…ゆっくり…ゆっくり!…ああっ!」
締まりのなくなった御園の口から涎が垂れる。眞澄はそれを舐め取ると、御園をソファに倒し腰を律動させる。
かき混ぜるように、突くように、探るように御園の中を堪能した。
「ひゃ!!」
御園が悲鳴のような声をあげると大きく身体を震わした。同時に眞澄を包み込む中がぐねるように蠢いた。
眞澄は呑み込まれそうな快感に、歯を食いしばり息を詰めた。
「ほんまに…あるねんな」
眞澄はニヤリと笑うと御園が悲鳴をあげた中のしこりを、己の切っ先で擦るように動き出す。
「いや!!そこ!…ああ!んっ!…いや!っ…!」
御園が逃げるように身体を捻りだした。酷い快感は苦痛でもあるのか、御園は眞澄の腕を掴むと血が滲む程に指を食い込ませた。
だが、眞澄も限界に近かった。眞澄は御園の手を取ると、ふるふる震えるペニスに手をかけさせた。
すると御園は直ぐ様、一心不乱にペニスを扱き出した。
「あかん!…イクッ…イクッ!眞澄!眞澄っ!」
自分の名前を連呼しながら果てる御園の姿と尋常ではない中の蠢きに、眞澄は御園の奥深いところに腰を打ち付けると、そのまま熱を吐き出した。
眞澄は御園の奥深くで一滴残らず吐き出すと、小刻みに震える御園の身体に倒れ込むように身体を預けた。
「はあ…はあ…熱…。背骨が…熱い」
「背骨やない…腹や」
「無遠慮に中出して…孕んだら責任とりや」
「…孕まんでも、お前はワシのもんや」
眞澄は身体を起こすと、ゆっくり萎えたペニスを引き抜いた。その言い様のない感覚に、御園は震えた。
「お前は…坊主にならんとワシとおれ」
「…眞澄、」
「お前はワシのもんや」
眞澄はぴしゃりと言うと、煙草を銜えた。
御園は気怠さと鈍痛の残る身体を起こしテーブルの上のライターを手に取ると、眞澄の目の前でただ摘まむように持ち見せた。
「セックスしてからすぐに煙草吸うんやめたら考えたる」
御園がにっこり笑うと、眞澄は煙草をテーブルに転がした。
「芸子と遊んでるさかい、そないな京弁使うんやろ」
「それもあるけど、うち婆はんがおるさかいな。婆はんは芸子あがりやし三味線の先生しはるさかい、芸子や舞妓はんがよお来はるんよ」
「御園、金輪際、女とも寝んな、男とも寝んな」
眞澄は鋭い眼光を御園に向けて、言い放った。御園はただ、艶笑した。
「眞澄って意外と嫉妬深いんやねな。独占欲も強いし」
「逃げれる思うなよ」
「思うてへんよ。やて、坊主なれへんとは言うてない」
「なられへん」
「大事なるわ、坊主がヤクザて」
「……」
「あら、眞澄もまだ決心ついてへんの。まあええわ。俺みたいにちょい悩んだらええねん。…なあ、シャワー貸して」
「ワシも入る」
眞澄は立ち上がり、ついでにとばかりに御園を抱き上げた。御園は眞澄の首に腕を絡め、座禅出来んかったら眞澄のせいやと呟いた。
御園からはやはり、香の香りが香った。