花の嵐

花series second2


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「やめろ、…バカ」
「んー?」
腰から上まで滑りの良い肌に舌を這わせて立ち上がる果実を舌先で弄ぶと、いよいよ静はどうにもならなくなってくる。ぐんぐん熱が上がってきて、痛いくらい目を瞑った。
するとちゅっちゅっと膨らみも何も無い胸を吸う音が聞こえてきて、カッと羞恥が増す。
堪らなくなった静は心の頭を抱え込みながら、その彫刻か絵画のように綺麗な身体をバンバン叩いた。
「なんやねん」
「…ズボン」
言い訳をする様に訴える。だが、実際に纏わり付くズボンと窮屈になってきた中心が何とも言えぬ不快感で、怨みの籠った目で睨みつけた。
窮屈になってきたので自らそれを脱ぐなんて事が出来るわけでもなく、だがそのまま居るには居心地が悪いのでこうして渋々訴えるしかないのも腹立たしいことだ。
「はいはい」
心は少しだけ笑って、静の臍にキスを落としながらズボンのボタンを外す。さすがに熱いと思って、浴槽の淵まで移動してそこに腰掛け、足の間に静を引き寄せた。
「お前、俺を何度、湯船に放り込めば気が済む訳?」
「あ?何や、優しく浸けろって?服脱がして両膝でも付いて、湯船に浸けてほしかったんか?」
その光景を想像して、なんだそれコントかと思って口を尖らす。結局、何をどうされても、やはりずっと腹立たしいままなのだろう。
そう思うと静はむっとして、心の耳朶を引っ張った。
「いてぇな…」
心は笑いながらすっかり膨れっ面の静の唇を舐めて、啄ばむようなキスを繰り返した。すると静もそれに応える様におずおずと心の身体に腕を回してくる。
ここまでするようになるまで時間がかかったなぁと心は人知れず思いながら、濡れて重くなった静の服を器用に脱がした。
ぎゅっとその華奢な身体を抱き寄せて深い口づけをすれば、苦しさからか静が口を開いた。そこに舌を捻じ込んで逃げ回る舌を捕まえ絡ませれば、快感に弱い静の腰はストンと落ちる。
「…ん、ん」
涎が零れ落ちるほどの口づけを交わし、そうしながら自分もさっさと身体に纏わり付く服を脱いでしまう。そこでようやく、風呂に入る正しい格好になった。
腰と腰を合わせて勃ちあがる雄を擦りつけ合いながら、口づけは離さない。歯列を舐め上げて、たまに舌先を甘噛みする。
薄っすら目を開けると、目尻を赤く色付かせ涙のような雫を溜める静が見えた。
「…ん、う、…ん」
鼻から抜けるような気持ち良さそうな声。それを聞きながら触り心地のいい尻を掴みあげると、舌をガリッと噛まれた。
「…い、っ」
「い、いきなり、触るから!」
痴漢か、俺は。
ひりひりと痛む舌を咥内で慰めながら、静の吐いた暴言とも取れるそれに呆れる。
恋人の尻を、じゃあ触りますと言って触る男がどこに居るのか、居るのならばお目にかかりたいものだ。
「はー、ほんなら…」
心は何かを思い付いたのか、片方の口角だけを上げてニヤリと笑った。その顔は何か悪巧みを思い立った顔で、静は訝しんだ。
「なんだよ」
「どこから触って欲しいか、静が言うたらええやん」
「は!?やだよ!」
「言うのが嫌やったら、触って欲しいとこ近づけろ」
「やだ!」
急に尻を掴んだと痴漢呼ばわりしておりて、じゃあどこから触ってほしいのか言ってみろと譲歩してみても”いや”と一刀両断。
口で言うのが嫌なら、触って欲しい場所を身体で教えてというのも却下。いやいやばかりじゃ、世渡りも出来ないぞと見当違いの指摘をしたくなるものだ。
「ああ、なら、お前が先に俺に触るか?」
「…え?」
静の反応に心は笑う。静は無自覚な心の身体フェチだ。
何がいいのか心自身はさっぱり分からないが、とりあえず肌触りなのか筋なのか、好きなのだ。心の身体が。
それを証拠に、静はじっと心の彫刻のような綺麗に筋肉の筋が彫り込まれた上半身を食い入るように見ている事が多い。
それは極端に言うのならば、いつでもだ。
抱いているときも、風呂上りに上半身を曝してソファに寝転がっているときも、オマエの方が痴漢だぞと言いたいほどにジッと見てくるのだ。
現に、触るか?と言えば、食い入るように心の身体を見つめてきた。思わず吹き出しそうになったが、そこは堪えて静の腕を引っ張った。
「わっ!」
「どこでもどうぞ」
言って、静の手を自分の胸元に当てた。
風呂に入っているせいと熱が上がるような不埒なことをしているせいか、静の掌は熱かった。熱が帯び、少し湿気た掌は心の身体にじっとり馴染むように溶け込む。
そして心が静から手を離しても、静は心の肌から手を離さなかった。
肌触りなのか、それとも筋肉の筋をなのか確かめるようにして指先でなぞられて、擽ったさに身を捩った。
「なに?」
「いや…」
「擽ったい?」
「ちょっとな」
静はそう?と首を傾げて、ならばと今度は掌全体で心の肌を撫でた。決して小さくもない、女のそれよりも大きい掌。
仕事が水仕事も多いからか少し荒れていて、たまに心の肌をちくりと刺激する。
やんわりと性的な触り方というよりは、筋と骨を確かめるような触り方は全く欲情しない。ただ、うっとりした顔で触られるのは悪い気はしないものだ。
「触るばっかやな」
「え?」
「舐めて」
「やだ」
案の定の返事に思わず笑う。”やだ”は静の専売特許だなと思った。
「じゃあどないする?さすがに萎える」
ムードなんてもともとない上に、筋肉や筋など骨組みを撫でられてばかりじゃ興奮も冷めて行く。まるで身体検査のようで、だ。
「…だって」
静は童貞である。女との経験ももちろん男との経験も無い。
肌を合わしたことが心が初めてなわけで、こうして向かい合う事が出来るようになったのもつい最近のこと。
ようは勝手が分からないということだ。どうしていいのか分からない静は、少し不貞腐れて心の胸板をパチパチ叩く。
「ま、えっか」
これが静のいいところでもあるわけなのだから。心はくつくつ笑って、静の胸元に口付けを落とした。

「あー、あっ!はっ、はっ!!」
風呂の淵に座る心の上に座る対面座位の形で最奥を攻められ、静は何度も心の背中を叩いた。
この形でやるのは好きじゃない。身体の奥底の、本当に心しか知らない場所を探られ、犯される。
脊髄を伝って、脳まで一気にシナプスが伝わって繋がって、痺れが止まらなくなる。
「んーっ!あ、あっ、ああ、あっ!」
「締め過ぎ、喰われる」
「ざ、けんなっ!ああー!!!それやっ!やだ!」
ぎゅーっと抱き締められながら腰を回されると、静が大嫌いな場所を心の剛直が擦り、目の前に星が飛ぶ。
身体が自分のものじゃないみたいに快感に飲まれて震え、ぎゅーっと痛いほど目を瞑る。内太腿が痙攣して、声が詰まった。
心の締まった腰に脚を巻きつけ、蛇のように締め付ける。自分でも分かるほどに心を飲み込む孔が伸縮を繰り返し、静は心の首元に腕を回して肩口に噛み付いた。
「は、はぁ…ん、あ、いや、もぅ、やだ…っ」
やだと言ったところで、止めるようなことはしてくれない。器用に腰を回されて、力の入らない静の身体は人形の様にその上で舞う。
ぐりぐりと中の秘部を擦り上げられ、突かれ、子猫の様に鳴くしかなかった。
「あ、あぁぁ…あ、う、ちょ、ちょっと待って、んん!待てって…!」
中が異様にうねるのを感じる。刺激が全部、身体全体を襲って痺れが止まらない。内太腿の痙攣が足の指の先まで痺れさす。
脳までもがじんじんしてきて、心に必死に訴える。
「や、や、…変、し、心、いやいや、いや、ああ…っ…あああ!…う、んんーっ!」
「…はっ、ヤバい、これ」
心を飲み込むそこは溶ける様な熱を発して、底なし沼のようにどんどんと飲み込む。そして静の身体とともに腸壁が痙攣を繰り返し、心を襲う。酷いくらいの快感だ。
「ひっ、ひ!!…あ、う…ん!!あ、ぁぁあ…!!はっ…、あぁぁ…、心、心…し、…!!!」
名前を必死に呼ぶが、もう自我を保てない。声が出ない。呼吸が荒れておかしい。歯を食いしばったが、背を駆け抜ける痺れが止まらず涙と共に涎が垂れる。
感じた事のない絶頂に、頭が真っ白になった。
「ひ、ひっ、だ、だめ、だめ…あ、え…?な、んか、くる…あああ、あ!!や、あっ!ああ、あ…ぁ…っ!」
ガタガタと意志に反して痙攣する身体を、押さえ付けるように抱き締められる。蜜壺の中の狂気は静を犯すのをやめようとせず、静は飛びかける意識を必死に掴んだ。
「…っ!!…は、…あ、ぁ、ぁあ…っ…は、ぁ…ん、ん…」
「はっ…ドライでイケるとか、反則やろ」
「っ…ん、あっは…っ、はっ、あ…」
もう悪態をつく余裕はない。緩やかな波の様に何度も何度も快感の波が静を襲い、攻める。その間も心の攻めは、緩やかではあるが止まる気配はない。
静は落涙しながら息を荒くして、快感の波に飲み込まれていく。
静のペニスは小刻みに震えながらも、白濁を吐き出そうとはしない。パンパンに腫れて、苦しそうにもがいていた。
寄せては返す波の様に快感が静を襲う。身体は小刻みに震えて、静はその波にどんどん溺れていた。
「し、心…心」
快感が次第に恐怖に変わってきて、静は心にしがみついた。自分が壊れてしまいそうで、縋り付く。
焼けるほどの熱を持つ蜜壺は、静を犯すオルガスムに同調して心を咀嚼する。心は小さく息を吐いて、身体にしがみつく静の背中を撫でながら腰を揺らす。
「ん…っ、んっ…あはっ、ん」
静は頭を振りながら、自分を犯す熱に戦慄いた。
意思とは関係なく静を犯す剛直をぎゅうぎゅうと締め付け、その高い雁高や浮き上がる血管や大きさ硬さが手に取るように分かり、静はぎゅっと目を閉じて心の背中を弱い力で叩いた。
力が出なくて、それに腹が立ってまた叩いた。
「あ?…なに?」
呼ばれてると思ったのか、心が動きを止めて静の顔を覗き込む。それを恨み顔で見返せば、ふっと笑われ、尖った唇に吸い付かれた。
「これ、ぃや…」
「やて、寝転んだら背中痛いやろ。ああ、バック?」
ガンッと背中を蹴るとその振動が自分に跳ね返り、悲鳴をあげて心にしがみついた。
「繋がってんねんから、自分に返ってくるに決まってるやろ」
「はっ…」
「これでも手加減しとる」
「…え?」
「お前持ち上げて、ヤルんもありかもな」
「や、やだ!」
想像しただけだ死にたくなる。静は心にそうさせまいと抱き付いた。
「大人しぃしとけ。気持ちよくしたる」
チュッと髪に口付けられ、心が腰を動かしだす。今度は強く、激しく。
水が暴れ、肌のぶつかる音が響き、そこに静の甘い悲鳴が混じった。
「やー!…っあああ!」
しがみつく腕の力が抜けそうになる。蜜壺の奥を痛いくらいに突かれて、心の堅い腹筋に擦られる静のペニスは水ではない、粘り気のある蜜を吐き出し心の腹を汚した。
「し、し…ん、ダメ、ダメ…、イク、イク…」
身体が震えて、涙が止まらない。脳が焼ける様な強い快感に無理矢理押し上げられて、静は心の背中に爪を立てた。
「はっ…」
心が漏らした吐息にゾッとして、静は足の指をぎゅっと丸めて消え入る様な声で鳴く。
「い、イク…っ!!」
最後はもう、声を出すのもやっと。絞り出し声に合わせて静はようやく白濁を吐き出した。そして、心を今まで以上に締め付け、中を煽動させた。
「く…っ」
心も小さく息を吐いて、静を強く抱き締めて、最奥で果てた。

崎山雅は鬼塚組の点在する事務所の一つで、コーヒーを啜っていた。安物のコーヒーは水臭く、崎山は不満に思いながらも思考を覚醒させるためにもそれを飲む。
崎山の前の会議用のテーブルには、及川の手土産の写真が綺麗にファイリングされて置かれていた。もちろん時系列に並べられ、きちんとファイリングされている。
それをじっと見ながら、表の仕事との切り替えのため深く目を閉じた。
「お疲れー」
陽気な声を出しながら、崎山の同期の成田と相川が入ってくる。崎山は壁の時計を見て、舌打ちした。
「遅ぇ…」
その苛立ちに相川がビクッと身体を震わせ、にへらと笑って崎山から一番遠い席に腰かけた。崎山の場合は物も飛ばすので、遠かろうが近かろうが関係のない距離だが、物ならまだ避けれる!と見当違いの意気込みを入れた。
明らかに苛立っている崎山に恐れを為しているのは相川だけで、成田は道が混んどったなんて暢気に話しながら崎山の隣に腰掛けた。
「お待たせー」
ご飯できたよと付け加えれそうなテンションで、熊、もとい橘が山ほど書類や地図などを抱えて部屋に入ってきた。
その後から高杉と佐々木も現れ、広いとは言えない会議室は男ばかりむさ苦しい部屋になり、相川はうげっと舌を出す。
「わかったの?」
部屋の中央の崎山は、テーブルに地図を広げる橘を見上げた。橘は微妙な表情を浮かべながら地図を広げた。
「ここが本家。で、写真のアングルから見て、このビルの屋上かな」
「なんや、ここ」
赤いマジックでバツで示された場所を覗き込みながら、成田は橘を見た。
「無人ビル…だなぁ」
高杉はその土地のものと思われる書類をテーブルに投げた。所有者は長谷宗吉。聞いたこともない一般人だ。
ビルは昭和半ばに建てられた鉄筋コンクリート、地上四階建ての物。一時はオフィスとして何社か入居してあったそこは、今では無人ビルとなっていた。
「競売もんなんか?」
「いや、遊ばしてやがるぜ?頑固な爺らしくてなぁ。立地も悪くねぇから、人入れろって家族に言われても聞く耳もたねぇ」
「なんで?」
「前の借主に夜逃げされたらしいぜ。人間不信ってやつ?」
高杉はくつくつ笑った。
「周りもこの長谷って人の持ちビルでねぇ。そっちは人が入ってるけど、ここは空きビル。でも、立地のせいか荒れてる様子もないし管理されてるからか、空きビルっていう感じもない」
佐々木は書類をパラパラ捲りながら、外観写真のページを出すとテーブルに置いた。
確かに空きビルならではの入居者募集の安っぽい看板はない。シャッターの横にガラスドアがあるが、そこから階段が上に伸びて居る。見る限り、ゴミやなにかが溢れてる様子もない。
崎山はそれを眺め、何かを思案している様だったがトンッとテーブルを叩いた。
「行くか」
「え?行くの?」
崎山の言葉に佐々木が首を傾げた。何か手がかりがあるようには思えないからだ。
「鍵が壊されたりはしてないみたいだけど?」
「なに?鍵、ないの?」
「あるぜ」
高杉がスーツのポケットから鍵を取り出しテーブルに投げた。研磨されたばかりの真新しい鍵は、スペアキーだ。本人の与り知らぬところで作られたそれを、崎山は相川に投げた。
「橘と佐々木は、一応その長谷って人が本当に何の関係もないのか調べて」
言われて、成田と相川、高杉は席を立った。残りは一緒に来いと言う事だ。