本当に君は僕を困らせる

- J'ai un gros problème -

花series spin-off


- 2 -

足、足首、腿、とりあえず足全体がくすぐったくて暁はハッとした。
さすがに連日連夜、睡眠と呼ぶには躊躇ってしまいそうな睡眠時間で突っ走ってきただけあって、自分が思うよりも身体は限界だったらしく、どうやら本を読みながら夢の世界に堕ちてしまっていたらしい。
まさか本を下敷きに寝てしまったかと焦ったが、本は眼鏡と一緒に綺麗に枕元に置かれていた。
フロアライトの仄かな明かりも消えていて、真っ暗闇ではないのは窓から入り込む月明かりのおかげだろう。ホッとしたのも束の間、足元の妙な感覚に目を細める。
「…え?」
何かが蠢いていて思わず足を引いた。だがそれは許されることなく、ぐっと掴まれた。
「そう、まさん?」
「起きましたか?」
ゆらっと影が見え、そして月明かりに相馬の顔が照らされた。
「起きちゃいます…さすがに」
着ていた浴衣は開け、広げた足の間に相馬が居る。不埒な悪戯を仕掛けていた相馬は、暁の抗議にふふっと笑った。
「寝る?」
四つん這いになって視力の弱い暁がちゃんと見える位置まで来た相馬は、少し意地悪そうな顔で聞いて来る。
暁はそれに唇を尖らせた。
「起こしたの、相馬さんなのに」
「そうか、それは悪いことをしたね。じゃあ、責任を取らないとダメだね」
ハッとした顔をして真剣に申し訳なさそうに言う相馬に、二人して笑う。そして、そうしてくださいと暁は相馬にキスをした。

するすると布が擦れる音がする。部屋の灯りが月明かりだけで良かったと思う。暁はゆっくりと外される帯を見ながら、そんな事を思っていた。
「怖い?」
帯を解いて、すっと肌に触れる手に身体が軽く跳ねて、それに相馬が笑った。
「怖いっていうか、何か緊張しちゃうかな」
「確かに、君に触れるのは2回目だからね。私も緊張しますよ」
「嘘ばっかり」
「本当ですよ」
遂に着物に手がかかり、すっと肩から滑り落ちる。月明かりに照らし出された身体は、膨らみもなければ柔らかさもない。
それどころか痩身で骨ばっている。それが何だか申し訳なくて、暁は頭を垂れた。
「どうかした?」
「女の子じゃないから」
「分かってますよ?」
女の子でもなければ、静の様な綺麗さもない。長身で骨組みもしっかり、男だ。
好きだから大丈夫と言われたとしても、本当に大丈夫かと不安になる。肌を重ねるのも2回目で、前回は何かの間違いだったのでは?と訝しんでしまいそうになる。
どうしても暁自身が色々と拭いきれないものに包囲され、自分では抜けれそうにないループに嵌るのだ。
「いや?」
顔を覗き込まれ、まるで子供をあやす様な柔らかい眼差しを向けられる。それに暁はどうしていいのか分からずに、首を振った。
「暁が納得するまで、いくらでも聞いていいよ?好きなの?どう思ってるの?どういう存在なの?ってね」
いくらでも答えるよと良いながら、顕になった肩口に口づけが落ちた。
ちゅっと軽く吸われて、猫が舐める様にぺろっと舌を出して舐める。それだけのことなのに、暁は後ろ手に支えていた腕の力が抜けてしまい布団に身体を倒した。
「…ごめ、なさ」
身体が一気に火照って、ぞくっとした感覚に目を瞑った。
「謝る事なんて何もないよ?感じてくれたら、それだけで嬉しい」
相馬は身体を丸める暁から着物を剥ぎ取って、アンダーウェアだけの姿にしてしまうと天使の羽の名残のような肩甲骨を指先で撫でた。
「わ!ちょ…!」
暁が驚いて身体を起こすと、それに相馬が小さく声を上げて笑った。
「くすぐったい?」
「くすぐったい…」
どこか緊張気味だった身体も解れ、暁は上体を起こした。そして、ゆっくりと相馬の帯に手を掛けた。
「おや、積極的」
「俺ばっかで、相馬さん、脱いでくれないし」
「もう、名前呼ばないの?」
「え?」
解けた帯を腰から抜いて、あー、と考える様に声を出した。
そういえば、さっき、名前を呼ばれた様な気がする。別に、男同士、名前で呼び合う事なんてあることだ。
だが、暁にとって相馬の名前は特別なのだ。気軽に口に出来る様な、そんな名前ではない。
「誰がつけたの?」
今、それ聞かないといけないことか?ということを、照れ隠しで聞いてしまう。
暁は帯を抜いたことで肌蹴た着物の隙間から見える相馬の彫り込まれた腹筋を、すっと手で撫でてみた。すると、それがビクッと震えて、暁もそれに驚いて手を引っ込めた。
「くすぐったい」
ふっと、今までで一番柔らかい表情で笑われて、暁はそれが今までで一番ぞっとするほど気持ち良く感じて、相馬の唇に軽く吸い付いた。
「キスは平気なのに、名前はダメなの?」
「だって…」
ただ、ふにゃっと柔らかい表情を見ただけだが、崩れた相馬の顔が色っぽく見えたのだ。それに思わず口づけてしまったのは、男の性ではないだろうか。
「ふふ、付けたのは祖父だよ」
「お爺さん?」
「もう亡くなってるけどね」
「北斗七星から?」
「いや、電車だよ」
「電車?ああ、青いやつだよね?え?相馬さん、北海道の人なの?」
「生まれはこっちだけど、田舎は小樽だよ。今は祖母が一人で住んでるんだけどね」
相馬はそう言いながら、暁の腕を引っ張って向かい合う形でぎゅっと抱きしめた。
「冬に、一緒に帰ろうか。良い所だよ。雪が厄介だけどね」
「俺、埋まるぐらいの雪ってスキーとかでしか見たことない」
暁は相馬の肩に額を載せて、その身体の熱を感じた。ほかほかと熱いのは、それだけ興奮してくれているということだろうかと嬉しくなる。
ゆっくりと顔を向けて、相馬の唇を吸う。深く口づけるのではなく、ちゅっと吸う感じのキスが好きだ。そうしながら、自分は意外にもキス魔だったんだなと思った。
キスの経験ももちろんあるが、ここまで求める事はしなかった。気持ちが良いとか、もっとしたいとか思う事がなかったような気がする。
だが、今は軽いキス一つなのに、いくらでもしたいと思った。
「ふふ…」
相馬は可愛いと呟いた。そして、今度はお互いが腕を回して、深い口づけを交わした。
こうなれば暁はどうも出来ない。口を軽く開けて、相馬の舌を迎え入れ、必死にそれに絡み付く事しか出来なくなる。
舌を絡めると、するっとそこから逃げられて上顎を舐められる。鼻から抜ける様な声が出たが、もう、そんなものは気にしなかったし、気にする余裕はなかった。
暁は縦横無尽に暴れ回る相馬の舌に、疎いながらも必死に舌を絡ませる。コクッと媚薬を飲む様にして流れ込んで来た相馬の唾液を飲んで、そこでようやく唇を離した。
「きもち、いい」
脳が痺れるような感覚にうっとりして呟くと、相馬が困った様な顔を見せた。
「本当に、大胆なんだか、そうじゃないんだか」
相馬はゆっくりと暁と一緒に布団に転がった。足を絡めてみると、腫れ上がった雄が布越しに口づけ、腰が逃げた。
相馬は暁の背中をゆっくりと撫で、そのまま下へと手を下ろすとアンダーウエアーに手をかけた。暁はやはりそれに身体を震わせたが、相馬の手に協力する様に身体を動かしてそれを脱いだ。
「相馬さんも、」
「いいよ、脱がしてくれる?」
相馬がしてくれたように、どうにか腰口に手をかけたものの引っ張って、そこからどうすればいいのか迷っていると相馬が反対側に手をかけてくれた。
「何だか、これはこれで恥ずかしいな」
ふふふと笑って、相馬が暁の額に口づけた。
「あの、お願いがあるんです」
「ん?」
「…口で、」
「え?」
「口でしてもいい?」
暁の申し出に、さすがの相馬も驚きで目を見張る。だが、暁がダメ?と言うと苦笑しながら、頭を撫でた。

「無理なら、やめていいですよ」
相馬に足を拡げてもらってそこに入り込んでいざ対面すると、さすがに表情が強ばった。
こういう状態のものを目の当たりにすることは、今まで皆無だった。そういう類いのビデオにもモザイクが掛けられていたし、そういうものを見るときに凝視するのはそちらではないので、さして気にした事もなかった。だが今まで見てきた中で、モザイクがあるなかでも、多分、一番大きい。
暁は思わず息を呑んだが、ゆっくりと舌を出して亀頭を舐めてみた。
「変な、味」
「くっ、ふふ、そうだね」
思わず漏れた言葉に、相馬はよっぽど可笑しかったのか、今にも声を上げて笑いそうになっていた。
「笑わないでよ」
暁は少しだけ膨れっ面になりながら、またゆっくりと舐めた。舌触りと感触は嫌いではないが、薬品のような味は得意ではないなと思った。
それでも口を開けて銜えると、余裕のあった相馬の顔から少しだけそれが消えると気分が良かった。感じてくれてるんだと、嬉しく思った。
どうされれば気持ちが良いのか、さすがにそこまで詳しくない暁は相馬を伺う様に見た。時折、閉じている目蓋が震える時がある。
多分、その時が気持ち良く思っている時だろうと勝手に解釈して、暁はちゅっと吸いながら顔を上下させてみた。
「何か、上手くない?まさか、どっかでしてもらったり、したりしてないよね?」
「し、してない!」
思わず口を離して声を上げると、相馬が眉を下げて、ぷっと笑った。
「からかったの?」
「ごめんごめん、でも、心配になるくらい上手い」
「だって、必死だもん」
柔らかい、抱き心地の良い身体じゃない分、こういうことをして満足してもらえるのならいくらでも努力する。
相馬に逃げられない様に、呆れられない様に、何よりも、誰かに心移りされないためにも暁は必死なのだ。
「暁がしてくれるなら、どんなことでも気持ち良いよ。…続けてくれる?」
耳朶を親指と人差し指で挟まれて、その感触を楽しむ様につるっと引っ張られる。暁はゆっくりと口を開いて、また相馬の熱棒を口にした。
舌で扱いて、雁高部分を唇で挟みながら顔を上下させる。その舌の動きと力加減は、実は学習済みだ。
暁は真面目な男だ。それは何事に置いても。
相馬ともし、また肌を合わせる事が出来たのなら、自分がしてもらうばかりじゃなく少しでも楽しんでもらおう。そう決めていた。
それが口淫に直結するまでは、あれこれ悩んだが、とどのつまりそれしか思いつくことがなかった。
この世の中は非常に情報に満ちている。満ちすぎていると言っても過言ではないほどに、インターネットさえあれば何でも調べられる世の中である。
”フェラ テクニック”なんて検索すれば一発、目も当てられない画像と文字の羅列がパソコンの画面一杯に広がるのだ。
何なら動画だってクリック一つで観れるのだから、末恐ろしい時代である。
男が男のために、そういうテクニックを学ぶのは些か躊躇われたが、どうしても何かしたかったのだ。
「気持ち良い?」
ちゅっと先端を吸うと、返事をするように蜜が溢れた。気を良くした暁は、また口一杯に頬張ると咥内の壁に押し付けたり喉元ギリギリまで吸い込んだりを繰り返した。
「ごめんね」
突然に相馬は一言呟くと、せっせと口を動かす暁の顎を掴んで、そのまま膝立ちになった。暁が驚いて目を見開いたが、相馬は妖艶に笑って、そのまま腰を穿った。
「んっ!!!ん、んーっ!!」
喉奥を突かれ、じんわりと涙が出たが、それでも暁は必死に舌を使って相馬の欲望を受け止めようとした。どくどくと脈打ち、堅さと体積を増したそれの限界を知って、暁の昂りからもとろりとした蜜が零れた。
そして一番再奥まで突かれた瞬間、焼ける様に熱い欲望が吐き出された。
「ご、ごほっ!!ごほっ…!!」
人生初めての経験に、さすがに暁も噎せ返ってしまった。まさか喉奥に出されるとは思っていなかったので、上手く飲み込めなかったのだ。
「ごめん、大丈夫?」
少しだけ息の上がった相馬が、噎せ返って苦しむ暁の背を擦った。暁はそれになんとか頷いて、汚れた口元を拭った。
「大丈夫…でも、ちょっとビックリした」
「ふふ、イイ子」
相馬は暁の額にキスをすると、布団の横の盆に載せた切り子グラスを手にした。
ふわり、甘い酒の香りがした。
「日本酒は?」
「飲んだ事、ない、です」
「そっか、じゃあ、俺の前だけね」
相馬の一人称が変わった。前もそうだったが、相馬はスイッチが入ると少し意地悪でフェミニストではなくなる。
今も情動が色濃く表れた双眸で、暁を見つめていた。
相馬はゆっくりと切り子のグラスに指を入れて、酒を撫でる様に指を動かした。そして、それの滴る様を見せつけられた暁は、グラスから指が出るのを見ると言われるまでもなく口を開けた。
果物の様に甘い味だった。鼻から抜けるアルコールは、気のせいか桜の香りが香った。
ちゅっとしゃぶり付く様に指に吸い付いて、出て行こうとする指に舌を巻き付けた。
「こら…」
相馬は暁の上顎を指の腹で撫でながら、指を拡げて口を開かせる。出て行く指に名残惜しそうに舌を巻き付けると、その舌に相馬が自身のそれを巻き付けてきたので、ちゅっと吸い付いた。
唇を付けるのではなく、舌だけを絡み合わせる行為のせいで、つーっと唾液が伝った。相馬はそれを指で掬うと、ぴんっと自己主張する尖った胸の果実をぎゅっと摘んだ。
「いたっ!」
「痛い?」
「痛い」
顔を覗き込む相馬の顔は、心配しているというよりも暁の色んな表情を引き出しているという感じだ。
感じている顔、困惑している顔、愉悦した顔、そして、苦痛に歪んだ顔。
「怖い…」
「怖くないよ、暁を傷つける様なことは絶対にしないけど、俺だけに見せる顔は欲しいでしょ。男なら、誰でも」
相馬はそう言って、ひりひりと痛む乳首に酒を塗り、顔を近付けるとあっという間に吸い付いた。
「あっ…!!」
軽く正座するような体勢を取っていた暁は、驚いて後ろに転がりそうになったが、相馬の力強い腕がその身体を支えた。