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太い堅い腕。その腕に鼻を付けて、ぺろっと舐めてみる。
「…威乃」
少しだけ咎める様な声。
「…あっ!おい!」
仕返しとばかりに、脇の下から手を差し込まれて何の膨らみもない乳首をゆるゆる撫でられる。
散々、絶頂を極めた俺の身体はそんな愛撫にすぐに反応。人差し指と親指でゆっくり摘んだり引っ張ったり、もう好き放題されてんのに口から出るんは文句やのうて喘ぎ声。
「あ…うっ…龍…」
「これ、好き?」
肩の横から龍大が顔を見せて、乳首に悪戯する指をペロッと舐めて、その指でまた尖った先端を撫でられる。ぬるぬるが気持ちええ。
「あ…うん、うん」
足の力も入らんくって大股開いてる。視界に入るんは緩やかに勃ちあがる節操のない息子。若さってすごい…。
ぬらぬらに濡れて、更なる刺激に期待して撥ねる。
「はッ…あ…ん」
その自分に姿に欲情して、先端から透明の蜜がポロッと溢れよる。
あー、もう最悪って言いたいのに、あ、とか、うとか、もうちゃんとした言葉の羅列がない。
「気持ちええ?」
言えとばかりに耳に舌を捩じ込まれ、膝を立てて擦る。もう限界。後ろがひくひくしてんのが分かって、そんな自分の浅ましい身体に泣きたいし、でも止められへんしで最悪。
「りゅう、ええ、気持ち、ええ…っ」
乳首はラズベリーみたいに真っ赤に染まり、大丈夫?これ戻るやんな?と不安になるくらいに尖っとる。
腰に当たる龍大の凶器は俺の身体を突きよる。いや、そこに穴は無い。貫く気かと有り得へんことでも龍大ならとか思ってまう。
「入れる?」
耳に舌を捩じ込まれながら囁かれる誘惑。ぐっと腰に熱を当てられて、ヒッと喉が鳴る。
徐に頷いたら、ずるっと脇の下から腕が抜けた。全身ぐったぐたの俺の身体はずるずる、龍大に凭れずり落ちた。
見上げると、欲情に目の色変えた男前。お前のその面構えだけで抜ける女も居そうよ?と頬を撫でると、その手をべろんと舐められた。
「龍大…?」
「威乃、入れて」
「……え?」
甘い雰囲気が一気に消し飛ぶ。今、なんつった?
「俺が、お前に?」
え?マジで?お前の執着と言う昼ドラ真っ青の愛情に、俺の息子は吐き出すことはあってもどこぞに入る役目は終わったと思うてたのに?
若いのに残念ながら一生の役目終了とか思うてたのに、まさかの展開!えー!久々、俺の息子の活躍ですか!と息巻く訳でもなく、いや、ちょっと…。
「愛があっても、出来んことと出来ることがあるよ?」
龍大くん?
「はぁ…?いや、違う」
形のええ片眉をあげて、龍大は俺の身体を起こして自分の上に座らせた。これは所謂、背面座位…?
「え?」
「おいで」
「無理!」
何言ってんの!今日、どないしたわけ?俺をどうしたいわけ!?逃げようとした俺の腕をでっかい手に掴まれて、俺を射程圏内に入れてる龍大のそれの上まで引っ張られる。
散々、好き放題された俺の後ろは、少しの口づけて口を開いて飲み込もうとする気満々。
「りゅう…!」
逃げようとしても腕は離してもらわれへんし、下手な抵抗して一気に貫かれんのも怖い。凶器やから!あれ!マジで!
これはもう観念するしかあらへんのかと、俺は目頭が熱くなるんを気のせいにして身体の力を抜いた。
「手ぇ、離して」
俺の観念を知ったんか、龍大は手を離して俺の背中を撫でる。背中の溝を指先で撫でて、尻たぶまで滑らすとヒクつく孔をそっと撫でた。
「いたずらすんな。その愚息、支えとけ」
俺は龍大の堅い太腿に両手を付いて、ゆっくり息を吐いた。
くちゅっと嫌な音。いや、イヤやないけど自分が出してると思うと、やっぱりイヤ。俺の消え去りかけてる男としてのプライド。
そこだけ体温40度ですか?って聞きたいくらいに、龍大の愚息は熱い。火傷しそうな熱をゆっくり身体の中に埋め込むんは、恐怖が勝る。熱過ぎて、どこまで入り込んでるんかが分かるから…。
「あ、っかん…ああ、熱いって」
「威乃んなか、も、熱い」
はぁはぁ息があがる、どんだけ飲み込んでるんか全然分からんけど、もう入らへん!
「もう…入らん」
「入る、まだ、半分」
ぐるっと急に腰を回されて、龍大の雁高な部分が俺の中の細胞を掻き回した。
「ああ!!うわっ!!はっ!やめ!」
びっくりして腰を引こうとすると、龍大はそのまま下から俺を突き上げた。
「ーーっ!!!!!!!!」
声にならんかった。普段やったら届かん場所に龍大の切っ先が届いて、息が詰まった。がくっと落ちそうになる俺の身体を後ろから足ごと抱いて龍大に持ち上げられる。
ちょっと!!すごい絵図やろ!と抗議の声なんか出されんかった。
「あん!ああ!い、やぁぁぁ!!ああっ!は、はっ!あ…!あああ!」
「威乃、威乃」
持ち上げられた身体ごと揺さぶられて、時折、俺の雄から涙が飛ぶ。ちょっとづつ達ってるみたいで、俺はもう上も下も分からんでただ喘いだ。
龍大の堅い肉が俺の秘宝をごりごり擦る。それはもう、容赦なく。たまにずるっと抜けきるまで腰を抜いて、力一杯入り込んできて、そのまま浅い抽出。
俺の軽いと言うても男の身体を抱き上げたまま、ぐちゅぐちゅと抽出するパワーには圧倒される。
「ああっ!!あ!ああ!う…んっ!んっ!!あ、りゅう、りゅう!」
ぐちゅぐちゅと卑猥な音、俺の喘ぎ声、龍大の荒い息。部屋は卑猥なそれで溢れ返ってて、もう世界中にそれしかないみたいに思えてくる。
「りゅう、もう、もう!」
「エエよ、達け」
ぎゅーっと目一杯抱き締められて、中の秘宝を更に強く抉られて俺は声も出せずに達した。
それからすぐに俺の細胞は龍大の雄を力一杯締め上げて、龍大は小さく唸って俺の中にその種を吐き出した。
「俺はね…普通でええ」
精魂尽き果てた俺の身体を、龍大はご丁寧に風呂に入れて綺麗にしてくれた。というか当たり前やけどね!!それでもやりたい放題された俺の身体は、ぐたぐたのまま。今はお気に入りのソファでごろり。
俺、いつかコイツにヤリ殺されそうな気がしてきた。
「普通?」
龍大が俺に色んなフルーツを搾って作ったジュースを持って来る。オレンジ色のそれを見る限り、ベースはオレンジのようや。
「セックスも普通がええの」
潮吹きとか!!背面座位とか!!俺をどうしたいの!?お前!
「でも、気持ち良さそうやったで?」
言われると、ぐうの音も出らん!ちゅーっとジュースを吸う俺の身体を持ち上げて、龍大が下に入り込む。いつも思う。重たない?俺、痩せ形やけど、ガキみたいに軽くはないで。
「あ、龍大、あんな…」
俺の髪に鼻を埋める男に顔を向けて、ぱちぱちその頬を軽く叩く。俺を堪能するんは、もう十分でしょうよ。
「ん?」
「俺、進路決めた」
「ああ、どないすんねん」
「パティシエ!」
「……は?」
龍大が、その男前面をアホ面にした瞬間やった。
「村山さん!これっ!これっ!」
「威乃さん!あかんよ!火弱めんと!」
渋澤家は朝から大騒ぎや。というか、俺が大騒ぎ。生クリームと砂糖、苺にオレンジが散乱している独立してる台所は、ちょっとした惨状。
俺は目下、パティシエ修行中ではなく、初めの第一歩のケーキ作り。とは言うても、いきなりスポンジケーキが焼ける訳でもなくスポンジを焼いたんは龍大。
とりあえずは初めっちゅうことでデコレーションの類いは俺と村山さんやけども、恐るべし、お菓子作り。
「…で、出来た」
村山さんと二人で、はぁっと息を吐いた。想像してたデコレーションにはほど遠く、なんやちょっと可哀相なケーキのような感じ。
「うーん、おかしい。こないなことになるとは」
「なんで?ええやないの!素敵よ、これ!」
村山さんは俺の背中をばんばん叩いた。素敵か?本気か?
「大騒ぎやなぁ」
声に振り返れば、渋澤さんが台所の散々な状況に苦笑い。いや、知ってるよ。片付けまでが料理です。片付けますから。
「あ、いや、出来た」
ほらほら、と見せると渋澤さんがふふっと笑った。
「ええやんか。スポンジは坊が作ったんやって?坊も…器用やなぁ」
まるで買ってきたかのような完璧なスポンジに微妙な顔を見せる。その何とも言えん顔、分かるよ、マジで。
俺よりあいつの方がパティシエに向いてるもの。龍大が今日からスーツを脱いで、コックのあれ着たらエエねん。
「おかんは?」
「庭んとこ」
俺は村山さんに急かされて、その何とも微妙な形になったケーキをいそいそと運ぶ。どっか緊張。結局、俺がしたことはこの何とも言えんクリームの飾り付けと、不器用に切り刻まれた苺のデコレーション。
中にはオレンジと苺を挟んで、でも、ところどころオレンジや苺が横からこんにちはしとる。まぁ、スゴいデロデロのケーキ。
こんなんでどうなるか分からんけど、俺はそれをおかんのおる部屋に運んだ。
「お、おかん」
ダサイくらいに声が震える。とは言え、呼んだところでおかんは俺の方を振り返ったりせん。これももう、学習済み。
俺は庭をぼんやり眺めるおかんの後ろの座卓に、ケーキを置いた。
「愛」
渋澤さんが呼ぶと、おかんはゆっくり振り返った。そして座卓の上のケーキを見て、ゆっくり猫の様に四つん這いでやってくる。
横着なところは変わってへん。俺は生唾を飲み込んで、おかんの様子を直立不動で見てた。どくどく心臓が早鐘を打つ。一応は興味を向けてくれたけど、口にしてくれへんかったらどうしよう。
見てくれは最悪。夜の店でバイトしてた経験があるとしても、専らホール専門で料理センスはあまりあらへん。もともと、ハルや龍大のように器用やないからや。
おかんはそんな俺の心配を他所にケーキの前にちょこんと座り、その見てくれの悪いケーキをじーっと見る。査定されてる感じがして、俺は唇を噛んだ。
「さぁさぁ、いただきましょうね」
村山さんが皿とフォークを持ってきて、テーブルに置いた。すると、おかんはそのケーキを切る前に指で生クリームを掬い上げた。
「あ…」
俺が小さく声を出すと、おかんはそれをぺろっと舐めた。そして次の瞬間、少しだけ、ほんの少し、気のせいか、いや気のせいやなく、おかんは笑った。
にっこりとかやない、少しだけ口元を緩めた。でも、それは俺が何十年ぶりとも感じるほどに懐かしい、おかんの笑顔やった。
それは俺の後ろで熊の様に立つ渋澤さんの、初めて見るおかんの笑顔やったわけで。
「あら!あらあら!!」
村山さんの声にハッとする。
「あ…」
俺の目からは大量の涙が零れ落ちとった。ぼろぼろぼろぼろ、涙腺切れたー!ってくらいに大洪水で、俺は必死にそれを拭った。
ぐしょぐしょになる俺の頭を渋澤さんのデカイ手が撫でてくれて、そんな俺らを見て村山さんは泣いて、そんな俺らをおかんは不思議そうな顔で見てた。
小さい頃、一度だけおかんとクリスマスパーティーというんをやった。おかんは小さい俺と二人やいうんにでっかいケーキを買ってきて、俺と二人で無理矢理食って後で気持ち悪なって…。
それでもおかんは美味しいねと笑ってた。
甘いもんは人を幸せにする。あのストロベリーイケメンが言うてた通り、この不細工なケーキは俺も渋澤さんも、そして村山さんも幸せにしてくれた。
「ありがとう」
俺を、おかんを幸せにしてくれて。おかんの旦那さんになってくれて。俺の親父になってくれて。
照れくささとかでなかなか言葉に出来んけど、それでも渋澤さんはそれを察したんかして顔を手で覆ってデカイ身体を震わした。大人ってこんな風に泣くんやなと思って、俺は渋澤さんのでっかい手を握った。
「ありがとう」
帰ったら伝えよう。龍大、俺はお前に逢えて、死ぬほど幸せやと。