空が青ければそれでいい

空series second1


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「あー、あっ、あっ、…もっと、りゅう、奥、奥」
もっと奥突かれたら気持ちいい。絶対そう。龍大はそれに答える様に、少し強めに腰を穿った。
「あああああ!!はぁ、ん…!ん、そこ、そこ!」
奥を突きながら、雁で果実を引っ掛けて刺激。それがすごい。中からじんわり、熱が漏れるみたいな。
俺のペニスも、ぐんぐん育って揺れとる。あー、若さ故。すごい。
「はぁ、…威乃、ここ?」
いつもより掠れた、でも熱っぽい声。
龍大の声は好き。普段も好きやけど、この声はもっと好き。甘い、俺が出さしてる声。
「ねぇ、気持ちええ?…あ、ううっ!ね、龍、大、」
揺さぶられながら、聞く。やっぱり気持ちええかどうか気になるんは、そこは男。
聞きながら、中でぐんと膨らむそれに満足。
「威乃」
龍大に唇を塞がれ、そのままガンガン突かれる。奥底を突きながら、ぐるーっと腰回して果実を竿の部分で押し潰す。
「あああああ!!い、いやー!!やー!!」
キスを避けて、顔を背ける。過ぎる快感がツライ。涙が出て、涎が止まらん。
やのに、龍大はもっとスピードを上げてくる。
「いや!!いや!早い!!…ああ、ああ!!」
ぎゅーっとシーツを握って、堪えても無理。マグマみたいに腹の底でぐつぐつ、熱が沸騰。
「ひっ!!…ふ、わぁあああん!!また、イッちゃう!!イク!!龍大!!や!」
「はぁ、…ヤバい、俺も無理」
龍大はそう言うと、もうイッたんちゃうのってくらいぐちゃぐちゃの俺のペニスを掴んで無茶苦茶に扱き出す。
そうなれば、声も出ん。頭が真っ白なって、どくんっと身体が跳ねた。息が止まる。
きゅーっと足の指が丸まって、龍大の腰に足を絡み付けて。しばらくすると、俺の中にあっつい熱が広がった。
あー、こういうのって…幸せかもとか思ったり。
びくびくする身体から一気に力が抜けて、そんな俺の上に、龍大が振って来る。
俺の胸元に頭がポンと置かれる、俺はそれを力の入らん腕でぎゅーっと抱き締めた。
上がる息を整えながら、ゆるゆると髪を撫でてみる。じんわり、胸が熱くて泣きそうな錯覚。
「龍、大…。好き、大好き…」
ずっと言えんで、でもずっとあった気持ち。好きって言ってるんに、切ななって胸がぎゅーってなる。
龍大は顔を上げると、俺の頬を撫でて笑う。あー、男前。
「威乃、愛してる」
囁く様に言われて、俺はぽろぽろと涙を流した。
愛してる。簡単な5文字がこんなにも嬉しいなんて、こんなにも切ないなんて。
愛してる。俺かて、龍大よりも愛してる。
言いたくても、俺は泣くばっかりで言えんかった。

二人でごろんと横になって、龍大の腕の中すっぽり包み込まれる。心臓の音がトクトク。自分のとシンクロして、ほぉっと息を吐いた。
充実感。満たされてる!!みたいな時間に酔う。俺の頬を撫でる龍大のでっかい掌に、猫みたいに顔を擦り寄せる。
ようやく、龍大の気持ちが聞けた。
ようやく、自分の気持ちが言えた。
それが幸せで、言ってもらえた事も言えた事も幸せ。
「威乃」
呼ばれるだけで、幸せ。幸せやなと思いながら、胸の奥の引っ掛かりが取れへん。
「…龍大」
「ん?」
龍大は自分の掌に擦り寄る俺の髪を撫でながら、少しの髪を掴んでキスを落とした。
「…おかん」
堕ちる前に聞いた、龍大の言葉。『泣かさなあかん』俺、何に泣かされるん?いや、わかってる。
「龍大、大丈夫やから」
お前が居れば大丈夫。俺は龍大が居れば、立ってられる。前を向いてられる。
「明日、病院行こな」
龍大はそう言って俺を抱き締めた。この腕があれば大丈夫。俺は俯かんでいける。
独りじゃない…大丈夫。大丈夫。

都内にあるアホみたいにデカイ病院。あれ?ドラマとかで観た事あるかも?あれ?ないっけ?ってかここ病院?
来る前に説明を受けたけど、何や、ここでしか出来ん手術もあるとか。
確かに敷地面積ハンパないそこ。大病院っていうよりも、何かの商社みたいよ?
田舎者丸出しの俺は、龍大の隣で首が痛なるほど高いビルを見上げた。
「…ここに?」
「特別病棟」
龍大は俺の手を引いて、エントランスを潜った。中はさながら高級ホテルのロビー。白衣着たおっさんとか看護師の姿見て、ああ、病院って認識。
龍大はその横を通り抜けて、奥まで続く長い廊下をどんどん進む。沢山のエレベーター。龍大が止まったんは、その一番奥にあるエレベーターの前やった。
チンッと何やそれだけは陳腐な音を出して、ドアが開く。中はやっぱりデカイ。広い。
人のおらん箱に乗り込むと、龍大は十階のボタンを押した。壁の案内には、十階は特別病棟としか書かれてへん。特別病棟の意味がよく分からん。分からんながらも、ドンドン心拍数が上がって、汗が吹き出る。
ぎゅっと龍大の手を握れば、龍大もぎゅっと握り返してきた。
「大丈夫や。俺がおる」
龍大の言葉にただ頷いた。
十階でエレベーターを降りて、龍大は更に奥に進んだ。どっか暗て、下の明るいロビーと一転した場所。
声一つ聞こえへん。病院って、ここまで静かやったかな?と、前方にナースステーションらしきもんが見えた。
龍大がそこへ行くと、眼鏡をかけた優しそうな看護師のおばさんが顔を出した。
「風間です」
「ああ、はいはい。息子さんかしら?」
窓口から乗り出した看護師と目が合い、頭を下げた。
「ごめんなさいね。じゃあ、外からね」
外から?看護師の言葉に首を傾げた。外からって何やねんと思ってたら、看護師が出てきて先導する。
ドアはいっぱいあるんに、どれもこれも閉まってて人の気配がない。不気味なそこを更に進んで行くもんやから、龍大の背中にくっついた。
「この奥ですよ」
看護師は相変わらず優しそうな笑みを浮かべて言う。
奥は大きい窓がいくつも嵌め込まれてるせいか、かなり明るい。白い廊下と白い壁。建物の向きも手伝って、眩しいくらい。
「あ、若」
看護婦が頭を下げて去るのと同時に奥から声がした。見れば、見覚えのある…。
「スキンや」
思わず声に出してもうて、慌てて口を押さえた。
「渋澤、どないや」
「はい…。少し落ち着きました」
カチコミか!!と怒鳴った、迫力パネぇスキンはあの時から想像出来んほどの低姿勢。
でっかい身体で龍大の横に並ぶ。龍大とスキンはそのままスタスタ歩き出した。
奥の方へ進んでも、やっぱり静か。奇妙な事に物音一つせん。俺らの足音だけ。
「あ…」
あそこやなと分かったんは、そこに不似合いなスーツの奴等が立ってたから。
まるで要人警護のSPみたいに微動だにせんと扉の左右に姿勢よく。
「外せ」
スキンが言うと、SP擬きは龍大に深々と頭を下げて去っていく。
そこに残ったドア。俺はそれをジーッと見つめた。この中に、おる。開けた瞬間、あの鬱陶しいくらいの満面の笑みで俺の名前を呼んで、男の愚痴を言うんや。
ごめんなー、心配かけて!アタシ、やっぱり男見る目ないー!やっぱ、威乃だけおったらええわー!って、聞き飽きた台詞を言って、笑う。
「威乃、大丈夫か?」
「平気や」
カタカタと震える手をぐっと握って拳を作る。
大丈夫、いつものあのアホ女がおる。そりゃ、ちょっとは怪我してるかもしらんし、ちょっとはいつもより元気ないかもしらんけど。
大丈夫や。ふーっと、息を吐いて軽い深呼吸。
そして、俺はドアに手をかけた。

真っ白な光が目を突き刺す。燦々と差し込む太陽が、容赦なく俺を突き刺した。
目が慣れた頃、そこにガラスが見えた。部屋の真ん中。そっから先に入られへんようになってる、透明の壁。
まるで水族館のような情景。そのガラスのせいで、太陽が更に鬱陶しいもんになってる。ギラギラ眩しい。
慣れた目を何度か瞬きする。ガラスの向こうに見覚えのある横顔。
「…あ、う、…ああ」
声が出て、涙がぽろぽろ溢れた。どくどくと血液が沸騰して爆発しそうな俺の頭から、一気に水が浴びせられる。じゅっと冷める熱とともに、すっと引く血液。
ギュッと唇を噛み締めて、ガラスに近付いた。ガラスに触れた指先がきゅっと鳴る。かたかた震えて、視界がぼやける。
『威乃にあいたい』ぐちゃぐちゃの紙と乱れた字。最後に見た、おかんの笑顔。
「なん…なんでぇ…」
俺の声はひどく震えとって、小さて…。
ぽたぽたと、白い床に落ちる涙。まるで大雨みたい。ぽたぽた、ぽたぽた、止めどなく一気に降る大雨。
「なんでぇやぁ…っ!!!」
ドンッとガラスを叩く。膝が笑う。身体が震える。耳の奥が痛い。
ガクリ、折れた膝。崩れる身体を龍大が受け止めた。
「う、う、…うわあああーん!!!」
ぎゅうっと龍大に抱きついて泣いた。声が枯れるまで叫んで、わんわん泣いた。
そこにおったんは紛れもない、おかん。ボコボコに殴られた顔と、痩せこけた身体。
ベッドに拘束されて、瞬きすらせん死んだ目。
ただ、息してるだけの、ただの肉の塊ー。