落花流水

空series spin-off


- 5 -

「でかっ!」
湯槽から出て縁に座らされ、足の間にハル。その目を覆いたくなるような光景に、梶原は息を吐いた。
何でこんな急展開と項垂れてしまう。それを許す自分にもうんざり…。
「お前…ホモか」
「いや、興味本位。威乃があんなんで風間と一緒んなって、俺は男に告られて自分の立ち位置が分からんようなってきた」
「お前の立ち位置って、周りがそうやからそうやないやろ?お前はお前や」
「俺ってなに?」
自問する様に言いながら、ハルは梶原の内腿に吸い付いた。チュッと強めに吸われて足が揺れた。
「…っ!」
「お、結構すぐに赤くなるタイプ?」
「アホか」
「まあまあ。あ、初心者やから、下手くそやけど許してな」
ハルはそう前置きすると、まだ萎えたままの梶原のペニスをペロっと舐めて、先端を口に咥えた。
その躊躇いのなさに梶原は本気かと呆れもしたし、驚きもした。
「…変な感触」
「やろうな」
「舌触りは嫌いやないけどな」
どうでもいい感想を言って、またそれを咥える。舌を巻き付け少し吸い付きながら頭を揺らすと、梶原の足がビクッと動いた。
「これ、好き?俺もここ、好き」
同性だからどこをどうすればいいのか、大体のツボは把握しているのだろう。ハルは的確に男の弱い部分を刺激してきて、梶原は背徳感に苛まれながらもその刺激にすぐに白旗を揚げた。
色々と考えたところで、それを止めることなくさせている自分も悪いのだ。
徐々に頭を擡げ始めた梶原のペニスを手で扱きながら裏筋を舐め、その下の双嚢を口に含んでやれば、それは一気に体積を増した。
「いい感じじゃん」
「何か、犯罪者になった気分や」
「犯罪者やろ?今更やな」
チュッと先端に吸い付かれ、割れ目に舌を捻じ込まれる。双嚢を緩やかに揉みながら口に入らない部分を手で扱かれ、梶原は息があがった。
「何か、百戦錬磨やろ」
どこの娼婦かと聞きたくなるほどに、手管が巧みだ。それに初めて男のペニスを銜えるのに躊躇いも迷いも感じられない。そうではない、そうなのかもしれない曖昧な時には、やはり躊躇いや迷いはどこかで出るはずだ。
若気の至りだったとしても、勢いに任せられないこともある。ハルにはそれが感じ取れなかった。
「威乃と違って、俺は喧嘩もしまくったけど同時に女遊びもしまくったからなぁ。梶原さんかてそうやろ」
「…やけど」
男のを咥えたのは初めてでしょ?
余計なことを考えて、なかなかイクにいけない。限界の波は押し寄せるのに、それを飛び越えることがなかなか出来ないでいた。
「…っ!?」
トプッと自分でも漏れたのが分かった。ハルを見下ろせばニヤリと目が笑った。蟻の門渡り。そこを指の腹で押している。
前立腺の裏側にあたる場所を的確に押して、快感を無理矢理に引き摺りだしてきた。まだ十代のガキ相手に良い様だと、もう、とりあえず迷いを捨てる。
梶原はハルの頭を掴むと、そのまま腰を動かし始めた。緩やかな腰つきは段々と激しさを増し、咥えているハルも苦しい筈なのに舌を巻き付けたり吸ったりしてそれに応えていた。
「出すぞっ…!」
腰にぞくっと痺れが走り、尿道を一気に駆け上がる感覚。何度かそれを吐き出すと、ハルの頭を離して縁に腰を下ろした。
全力疾走でもしたかのように息が上がる。荒い息をどうにか落ち着かせ、足元に座るハルの頭を撫でた。
「…ま、まず」
「…飲むなよ」
「何事も経験。でもタンパク質100%はキツイ」
「せやな」
梶原はシャワーのコックを捻り、自分とハルに当てた。口に指を入れ、シャワーを当てる。
女の口に出したことがないかと言えば答えは”NO”だが、男の、しかもまだ若いハルの口の中に出した罪悪感は酷いものだ。
「口、洗え」
男のをしゃぶって勃つわけも無く、ハルのそこは萎えたままだった。
梶原はそのハルの腕を掴んで股の間に背中から座らすと、まだ成熟しきってないような気もする身体を撫でた。
「硬ぇなぁ」
女の柔らかで撓わな胸もない、平たく硬い胸。引き締まり括れた腰は、男が鍛えて締めた腰だ。
痩せ型で身体が薄いように見えるのは、やはりまだ成長しきっていないからか。
「残念ながら、太りたくても太らんからな」
「ガキやねんし、食え。成長期やろ」
「もう成長止まっとるわ」
「龍大さんは、まだ伸びとんぞ」
「あんな規格外と一緒にすんなや」
「会話に色気があらへんなぁ」
盛り上がりに欠けるが、とりあえず、萎えているハルのペニスをゆるゆる扱いてみた。
「案外、平気なもんやなぁ」
「手がでかい」
ハルが笑う。若さ故か、ハルのペニスはどんどんと頭を擡げる。くちゅくちゅと水が混じって卑猥な音が響いて、ハルの息も上がり始めた。
それに気を良くした梶原は、ハルの何の膨らみもない胸を揉み、尖り始めた赤い果実を指の腹で捏ねる。
「…はっ!あ…」
「いい反応。気持ちええ?」
「へ、変な感じっ、胸っとか」
弄る事はあっても、弄られる事はないよなとは思う。梶原は自分の両足にハルの両足を掛けさせ、軽い身体を持ち上げた。
「うわっ、これは直視出来ね…」
ハルは梶原の首に顔を埋める。
所謂、M字開脚。身体が柔らかいからか、苦痛はなさそうだ。
梶原は思わずニヤリと笑い、出しっ放しのシャワーを手に取った。
「…え?」
ハルが気が付いた時には遅く、梶原はシャワーをハルのペニスの先端に当てた。
「あっ!あ、やっ!ちょ…っ?うあっ…ん!」
勢いのいいシャワーはハルのペニスを容赦無く攻撃する。ハルは悶えて、腰を浮かしながら声を上げた。
「はっ!ああっ!やっ、や、ら、扱いて、ああっ!」
ビクビク痙攣しながら、梶原の腕を力一杯掴む。梶原はそのハルの首筋に舌を這わして、ハルのパンパンに腫れたペニスを強く扱いた。
血管が浮き出て刺激で震えるペニスに自然と唾を呑む。遊んでいるものだと思っていたが、綺麗な色をしたそれを手の中で弄んだ。
「梶原、さんっ…!あ、ちょっ、ああ、…ん!!」
腰が浮き上がり逃げを打つ、だが梶原の上に座ってしまっていて逃げ場はない。強弱をつけて扱かれてハルの内太腿が痙攣する。
「あー!!あー!!あ、イクッー!」
一際大きく息を吐いて震え、梶原の手をハルのそれが汚す。内腿を痙攣させて、喉を鳴らし快感で緩んだ口から涎が垂れた。
梶原はハルのペニスをゆっくり扱きながら、ペニスの先端にシャワーを当て続けた。
「や、くすぐったい…梶原、さん。…はっぁ…」
先端を無理矢理開いて中にシャワーを当てると、ハルの腰が揺れる。ゆるゆる扱きながら、ハルを降ろすと風呂の縁に手をつかした。
脚に力の入らないハルの崩れそうな身体を腰を掴んで支えると、ハルが驚いたように振り返った。
「あ、ちょ…」
「入れたりしねぇから、閉じとけ」
梶原はハルの股を締めさせ、そこに再び頭を擡げたペニスを滑らせた。ハルの意外にも妖艶な痴態に興奮したのか、ガキ相手にと嘲笑してしまう。
シミ一つない背中に出来た深い溝を指で撫でながら、肉の薄い太腿でペニスを扱く。柔らかいハルの双嚢が当たり、そこは肉の中にペニスを入れている錯覚がした。
「梶原、さん、シャワーやだ」
「気持ちええやろ。先端刺激されて」
腰を動かしながら、ハルのペニスにシャワーを当てると抗議の声が上がった。だが言葉とは裏腹に、それは気持ちが良さそうだ。まるで擬似セックスのような行為。
梶原はハルの項を舐めた。
「はっ、はぁ…あっ、梶原さ、」
指の先が白くなるほどに縁を握る。パンパンと肉の当たる音がバスルームに響いて、肌を重ねているという事実を思い知る。それに身体の芯が震えた。
「イクッ…あ、また、いっちゃ…梶原…さっ」
振り返ったその顔に肌が粟立った。ゾッとして、伸ばしかけた手を抑えて代わりに首筋に噛み付いた。
その刺激にハルは声を上げ、二度目の熱を吐き出し、梶原はその股を汚した。

「最近の若いのは怖い。恐ろしい、ほんまやることに付いていかれへん」
梶原はソファで頭からタオルを被り顔を覆って嘆いた。その前で何事もなく頭を拭くハルを睨む。
ジェネレーションギャップなのか?これが今時の若者というやつかと思っていると、ハルが視線に気が付いた。
「あ。若いのって、俺か」
「お前以外誰がおんねん!」
「やてさぁ…。梶原さんも乗り気なったやん。最後、俺噛まれたし。梶原さん、ああいう趣味?」
「なわけあるか!」
キスしかけたのを止めたなんて、口が裂けても言える訳がない。
それよりも思ったよりも強く噛んでしまったのかハルの首筋にはくっきりと歯形がついてしまっていて、申し訳なく思った。
だが梶原はハルと肌を重ねたことで気が付いたことがあった。
「お前、初めてちゃうやろ」
「何言ってんの、初めてやし」
梶原の問いかけに即答。梶原はハルが冷蔵庫から持ってきたビールのプルを引き上げると、口をつけた。
「実際には初めてやけど、そういうこと想像してた。告られたっていうんも嘘やないやろうけど、お前、今おる好きな奴が男か」
「好きとかちゃうわ!」
梶原の指摘に珍しく声を荒らげたハルを見て、梶原は鼻を鳴らした。
「ガキやな」
梶原が笑うと、ハルは髪を拭いていたタオルを梶原に投げ付けた。
「もう寝る!」
帰ると言わないのかと思ったが、今の時間は電車は動いていない。そこはさすが賢いかとベッドルームに向かうハルを見ながら思った。

「ハルくん、これってあってる?」
実習中、車の下にメカニッククリーパーに乗って潜っていたハルを沙奈が覗き込む。ハルはそのまま滑り出し、沙奈の小さい手に握られた部品を見た。
「これ、このコードこっちじゃ走ってる途中にエンジンから煙上がる」
「あ、そっか」
納得した顔の沙奈に徐に手を伸ばし、柔らかい頬を親指の腹で撫でた。
「え!」
「あ、悪い。油」
無意識にしたそれに、思わず笑う。いつも威乃に世話を焼いてた癖が出た。真っ赤になる沙奈を放って、ハルはまた車の下に潜りこんだ。
ハル達がしているのは、講師の出した意地悪な課題。わざとプラグやコードを間違った箇所につけ、壊れた部品や作動しないコンピューターを入れた車の再生。
五人一組でそれに取りかかるが、これがまた至難の技だ。
解りやすいのはさっさと片付くが、何をどうしてもエンジンがかからないのが当たり前。かかったとしても、すぐブローして1からエンジンの組み立てなんて難解な段階を踏む羽目になる。
そのオロオロした生徒をしたり顔で眺めるのが講師で、ごく稀にヒントをくれたりする。
「罪人よ、祈りたまえ」
ハルの横に小山田が滑り込んできて、それが第一声。
「レンチ」
「沙奈、トマトになっとったで」
「コンピューターは?」
「今、槇原が取りかかってるけど、あれは無理かも。タービン、多分死んでる」
「マジでか!ないわー。タービン組みとか」
「ないのはお前やろ」
小山内を見ないまま、ボルトを回す。確かに自分でもあれはないなと思ったが…。
「わざとやないし。癖やし」
「え?あんなんする相手おんの?」
「まぁ…」
男ですが。幼馴染で最近逢ってませんが。
「そういや、槇原も最近、変よな」
「…へぇ。スパナ」
まるで手術をしている主治医と助手のように、工具をもらう。
槇原とはあれから世間話はするが、その話はしていない。槇原が避けているのもあるが、この実習をクリアしなければ全員が点を貰えないのだ。うつつを抜かしている場合ではない。
「名取、沙奈と付き合わんの?年上のお姉さまの魅力も分かるけどさー、行く先は若い肌でしょう」
「お前はそればっかか。若い肌って、どこのオヤジやねん」
「優良物件だぜ?ちょ、そこグリッドおかしくね?」
「あ、ヤベ」
取り乱すことなく冷静に作業をするハルを見て、小山内が嘆息した。
「名取ってどっか冷めてるよなぁ。悪かねぇけど、俺はなんや寂しいわ」
「冷めてへんし。ただ、人より感受性が豊かやないだけや」
「あら、そう?ところで、近藤チーム、やらかしちゃったよ。エンジンルームにエンジンオイルぶちまけの術」
「うわぁ、乙です。うちはそういう粗相のないようにな」
ハルは次々と部品を交換しながら、そんなに冷めてるかな?と考えた。だが喜怒哀楽ストレートの威乃と比べれば冷めているかもしれないなと思った。
するとブルブルと振動する携帯に気が付き、小山田に任せて車の下から這い出す。ディスプレイに表示される名前に顔が緩む。久々だなと思いながら、通話ボタンを押した。
「どないした」
『お疲れー、元気?』
「まあまあ。で?迎えに来いって電話?」
『正解!』
電話の向こうで底抜けに明るい声が響いた。相手は腐れ縁の威乃である。数ヶ月前までは毎日毎日顔を突き合わしていたのに、行く道が違うとこうも逢わないものかと思う。
やることを言えば喧嘩ばかりだったのに、ここまで逢わなくなると正直、寂しいものだ。
「分かった。いつもの場所な」
「女かー。年上の百戦錬磨よりも清純可憐の若い肌ー」
ゴロゴロとメカニッククリーパーに乗って小山田が転がってくるのを、ハルは足で押し返した。