落花流水

空series spin-off


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「なんでこんなことに」
ハルはここ最近で一番深い溜息をついた。広いオープンキッチンで椎茸を洗う。最近、こうして料理をすることが増えてはいるが、ここは使い慣れた梶原の家の台所ではない。
チラリ、隣を見てまた息をついた。
「なんで」
「何がや」
白菜を切りながら、風間龍大はハルを横目に睨む。睨んだつもりはないだろうが、泊が付きすぎて笑えない。
威乃と待ち合わせの場所へ行き、龍大と暮らすマンションに送ってくれば夕飯に誘われた。
久しぶりだし無下に断るのもなと部屋へ行けば龍大が居て、ハルは固まった。
最近は龍大も多忙でつまらないとぼやいていたので、てっきり威乃と二人きりの食事と思っていたからだ。
確かに龍大は居ないとは言われなかった。だが、居るとも言われていない。居ると言えば、ハルが食事を断るのを知っていたからだ。
ハメられた!と思ったが後のまつり。逃げるわけにいかずに諦めた。
だがそこには梶原も居て、ちょっと逢うのよそうかなとか思っていたハルからすれば、一番の打撃だった。
「元気か」
洗った椎茸をザルに入れ、龍大に渡すと一言それ。ってか今更なの?来てから何分経って、何分二人で野菜と格闘してんの?
「…ぼちぼち」
と言ってみたものの、それに何らかのリアクションがある訳もなく、何らかの返答がある訳もなく。というよりも、元気ですか!?やろ!
「年上への敬意は叩き込まれたんやないんか」
「敬意?俺が?なんで?」
なんでって何が?固まるハルに龍大は片眉をあげ、大丈夫かコイツ…という顔。いや、お前が大丈夫か。
「姉ちゃん、はべらしてリアル極道やろ」
「は?ああ、威乃か」
「お前さ、威乃がそれしたらどうする?」
「周りの女殺す」
即答かよっ!しかも物騒やし、お前ならやりかねんだけに恐ろしいわ!
ハルは大袈裟に息をついて、龍大に残りの椎茸を乱暴に渡した。
「お前も洗わんかい。威乃は椎茸好きや」
「知ってる」
ですよねぇ。うん、知ってるでしょうね、俺より。梶原と顔を合わせているのも居心地が悪くてキッチンに逃げてきたが、ここはここで居心地が悪い。
「ハル、学校どない?」
何も考えてなさそうな威乃が呑気にキッチンに顔を出してきてので、手についた水を指を弾いて飛ばすと冷たいと大袈裟に喚いた。
この底抜けに明るいところ、これに救われてきたんだよなと思う。
「お前こそどないやねん」
「うーん、パティシエの道のりは長く険しい」
「いや、アホなん」
「まぁ、おもろいよ。友達出来たし。向日葵ちゃん」
おいおい、女かよと隣の龍大を盗み見るが余裕の顔で不敵に笑われて、舌を鳴らした。
「公認かよ」
「ハルは?」
言われて、小山田や沙奈の顔とともに槇原の顔も浮かぶ。友達?友達…?いや、友達ってなに?
「いや、色々と前途多難…」
「え!?いじめられてんの!?」
いや、本気かお前と呆れた顔をすると、すぐにそんなわけないかという顔をされた。
そう、そんなわけないのだ。一応、いい子ぶってはいるし、周りに合わせて”普通”を演じている。
ストレスフリーとまではいかないが、これが長年好き勝手やってきた反動で、今は忍耐の時期…。

極道って儲かるのね。そんなことを思いながら黄金に輝く卵にズッシリと重い肉をつける。この面子で鍋を囲むのはどうかなと思ったが、A5ランクレベルの肉にありつけるのなら、それは考えものだなと思った。
「うっっっま!!!!!」
威乃が大袈裟に言ったわけではなく、本当に美味い。死ぬまでに食えるかどうかの高級肉だなとハルも無言で肉の味を楽しむ。
しかも卵もタイムセールで買うようなお得感いっぱいのものではなく、これまた高級なものというのがその弾力と色合いから分かる。
ちょっと箸で突いたくらいじゃ壊れないのがすごい。TVで観たことはあったが、大袈裟に言っていると思っていたくらいで本当に存在しているとは思わなかった。
「これってどこで手に入れんの?まさか買ったん?」
素朴な疑問をぶつけると、龍大がハルの隣の梶原を見た。
「もろたんです。若の襲名祝いですわ」
襲名祝い…。それを聞くと微妙な味になってくる。潰れない卵の黄身すら、色々とちょっと違う感じに見えてしまう。
「そういえば、小沢さんのお祝いどうするかって親父が」
威乃が呑水に肉を滑らしながら妙なことを言うので、ハルは首を傾げた。
「小沢さんも出世したんか」
「いやいや、まさか。結婚ってか、子供生まれるんやて」
思いも寄らない話にハルは箸を滑らせた。テーブルに落ちた箸を慌てて拾う。
「あ、わ、悪い」
「大丈夫か?あいつも人の親かーとか、親父、爺さんみたいなこと言ってた」
ケラケラ笑う威乃に合わせてハルも笑ったが、胸焼けに似た気持ちに唇が震えた。

「もう、ハメんなよ」
玄関先で念を押すように言うと、威乃はハメた覚えはないとそっぽを向いた。
「普通に龍大と飯って言ってもハルは来ーへんやん。前は小沢さんと遊んでばっかりで、今は学校が忙しいって遊んでくれへん」
「子供みたいなこと言うな。まぁ、時間あるときは遊んだるから。ほな」
「あー、待て待て、送る」
広い玄関で二人に見送られながら出ていこうとするハルの腕を、梶原が掴んだ。
「バイクなんですけど」
「酒飲んでた」
全く喋らない男が告げ口だけしっかりとしてくる。ハルは効果ゼロとわかっていても、龍大を睨んだ。
「俺は飲んでないからな」
梶原に引き摺られるように玄関から出てエレベーターへ行くと、ハルは大きく息を吐いた。
「歩いて帰るし、送らんでええ」
「遠慮すんな」
「してへん。てか、マジでいらん世話やろ。そこやん。送っていらん」
一度、意固地になるとなかなか崩せるものではない。性格のせいもあるのか一度NOと言ってしまうと、それを覆すのは自分で思っている以上に至難の業なのだ。
エレベーターに乗り込み1階に着いた途端、駐車場と反対方向へ行こうと歩を進めた。その腕を捕まれ数ヶ月前まで剥き出しにしていた牙が、ようやく出番とばかりに顔を出し拳を梶原に当てた。
プライベートでは優しい梶原も風間組の補佐という肩書きがあるだけあって、同年代の中で抜きん出て強かっただけのハルの拳を簡単に受け止めあまつさえその腕をぐるっと背中側に回して拘束する軽業まで披露した。
「いてぇ!!」
「暴れるからやろ。マジで顎に入れるつもりやったやろ、ヤンチャめ」
「やかましい!!離せや!」
ぎゃーぎゃー喚くハルに呆れながら、梶原は自分の車の助手席にハルを放り込んだ。だがそこで大人しくしているわけもなく、そこから飛び出してこようとしたハルの顔を掴んで押し込んでドアを閉めた。
頭に血が上ったハルは中からドアを思いっきり蹴り飛ばしたが、最高級車がそれでどうかなるわけもなく跳ね返ってきた反動で足が痺れ、さらに腹が立って窓ガラスを殴った。
「防弾やぞ。割れるかよ」
運転席に乗り込んだ梶原は血管が切れそうなハルを呆れた顔で見て、肩を竦めた。そこでふと、自分に向かってきた人間は久々だなと思いながらゆっくりと車を走らせた。

梶原のマンションの廊下でギャーギャー喚いたが、すぐに部屋に連れ込まれリビングのソファに乱暴に押しやられた。
「あんたん家やんけ!俺ん家に送るんちゃうかったんか!」
「あほう、お前あのまま家に帰らせてたら街に出て誰彼構わず大喧嘩でもしとったやろ」
スーツのジャケットを脱いでネクタイを緩め、キッチンへ向かう梶原を追いかける。
何を根拠にと肩を掴むと、一瞬で腕を取られ、そのまま身体を拘束されシンクに顔を押し付けられた。
「やから、さすがに俺もお前には勝つんやて。牙剥く相手間違うな」
「うっさいわ!関係あらへんやろうが!」
押さえつけられても大暴れしようとするハルに梶原は眉を下げて、仕方がないなと手を離した。
「喧嘩して、ほんで学校も辞めるんか?最近の学校はそういう素行に厳しいて聞いたぞ」
「ほっとけ!」
梶原の手を乱暴に振り解いて玄関へ向かおうとするハルを、梶原は肩を竦め、やれやれと後ろから首に腕を回すとそのまま寝室へ引きずっていった。
強い乱暴な力で首が絞められ、声が出ずに足掻いているとベッドに倒された。いい加減、ぶっ殺すと身体を起こすと、その額に黒い鉄の塊が押し付けられ喉がヒュッと鳴った。
「ほんもん、見たことあるよな。うちの組長が一回撃たれた。銃声も覚えてるやろ」
ゴンっと額に銃口を当てられ、ぎゅっと唇を噛んだ。だがそれで引くわけもなく、自分から額を銃口に当てにいった。
「撃つなら撃て」
「脳みそ撒き散らす趣味か?まぁ、とにかく一回、落ち着け」
ぎゅっと噛み締めていた奥歯が、徐々に和らぐ。額に当てられた鉄の塊の冷たさがハルの熱を冷まし、ハルはそのままベッドに転がった。
梶原はそれを見るとベッドサイドに銃を置いて、その隣に置いてあった煙草を口にした。
「ここ禁煙って言ったやろ」
「俺ん家やぞ、それに咥えてるだけやし」
じっと睨まれ、梶原は「はいはい」と煙草を銃の横に置いた。その手をハルがそっと掴んだ途端、梶原はハルの唇を乱暴に奪った。
唇を重ねた瞬間、ハルは梶原を受け入れるため口を開いて舌を招き入れた。邪魔な上着をキスをしながら脱ぎ捨て、梶原に抱きつきながらその身体を引き寄せてベッドに押し倒し上に跨った。
唇は重ねたまま梶原のシャツのボタンを外すと、梶原もハルの着ていた服を次々と奪うように脱がしていった。
全裸になったハルの陰茎はすでに勃ち上がっていて、ハルはゆっくりと下へ下がると梶原のスラックスのチャックを歯で噛んで下げていった。
「こら」
「ええやん」
インナーの上から舌を這わせ、徐々に勃ち上がるそれを甘噛みする。上を見れば梶原が余裕の表情でハルを見下ろしていたので、ムッとしてインナーを下げると勃ち上がる陰茎を口にした。
ジュッと飲み込み頭を上下させながら口の中で吸い込み舌を這わす。歯を立てないようにして、唇で扱くように力を入れて入りきらない竿を手で扱いた。
そして舌先を先端で遊ばせながら喉奥まで咥え込むと、ハルの頭を撫でていた梶原の手の動きが少しだけリズムが狂ったようになった。
それに気をよくして喉の奥で飲み込まんばかりに吸い込むと、グッと顔を押しやられた。
「やばい?」
「プロか、ほんま」
梶原はハルを押し倒すと両足の太腿を掴んで、薄い肉の間にズルッと陰茎を押し入れた。
「うわ!ちょ、また素股!」
「十分、気持ちよさそうやけどな。吸い付いてるときから」
梶原の言う通り、ハルの陰茎からは蜜が溢れ出ていてローションがなくともよく滑るほどハルの太腿を汚していた。
ズルッと熱の塊が陰嚢を押し上げ擦る。疑似セックスのような動きで腰を当てられ、後ろから胸や揺れる陰茎を扱かれ声が漏れて思わず口を塞いだ。
「おいおい、我慢すんなよ」
「や…だ、」
言ってまた口を塞ぐ。女のように喘ぐのが耐えれずに口を塞ぐが、肌がぶつかり扱かれる陰茎に内太腿が震える。
挟んだ梶原の熱も手伝って、気を緩めるとすぐにでも達っしそうで腹に力を入れた。
「何の我慢勝負よ」
梶原は言って後ろからハルの細い首に軽く噛み付いて、口を塞ぐ手を取ると開いた口に自分の指を捩じ込んだ。
「あ!!ん…っ!」
歯を食いしばろうとすると梶原の指を思いっきり噛むことになる。ハルは思わず口を緩めたが、その途端に陰茎の先端を指の腹で捻じ開けられ身体を反らして声を上げた。
「ああ!ダメ、待って、イクっ…あ、あ!」
口に突っ込まれていた梶原の手を握って自分も思いっきり腰を振る。梶原の大きな手で少し強く握られると我慢ならないと腰を丸めて勢いよく熱を吐き出した。
カクカクと震える身体を仰向けにされえると、梶原が育ちきった熱を扱いてハルの薄い胸に欲望を吐き出した。フルッと震える梶原の陰茎を見て、ハルは身体を起こすとまだまだ固い陰茎に舌を這わして吸い付くようにキスをした。