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「てかさ、歩いて来たんかな」
「どっかに待たせてるやろ。歩いて行動するタイプやない」
本当に何をしに来たんだと龍大は息を吐いた。帰ってきて思ってもない来客に疲れが増したという感じだ。
「申し訳ありません、龍大さん」
渋澤が頭を下げると龍大は片眉を上げて獅龍の去った方に視線を向けた。龍大の言う通り、少し離れたところでテールランプが見えた。
それを見て、龍大は眉を上げた。
「いきなりここに?」
「はい、自分らよりも先に来てたんかと」
「誰に聞いてん」
そうだ、龍大の住処であるここは周知されているわけでもなく、一部の組員しか知らないのだ。最近は自分で運転して帰ってくるので送迎もない。
そこに獅龍が待ち伏せしていたというのは龍大からすれば面白くないことだ。
「小沢か」
暴行され逃げ込んできた時に部下にでも跡をつけさせたのか。そうまでして、威乃との関係性に言葉を持たせたいということか。
「何、考えとんねん。アホが」
我が兄ながら何を考えているのか魂胆が読めない。付き合っていることを龍一にバラすつもりなのか、それでどうしたいのか。
自分の地位の格上げ?そもそも、組に入りたいと考えているのか?
「俺、どっか泊まろうか」
難しい顔をして考え込む龍大を見てそう言う威乃をギュッと抱き寄せる。いっそ、心のように付き合っていると公言するか。だがそれは威乃だけではなく渋澤や梶原、若しくは組全体を巻き込む騒動となるだろう。
そして、威乃はそれを望んではいない。
「ええ。獅龍がそれ知ったら、また疾しいんやろって言うてくるわ。何をやっても言うてくるんやし、放っておけ」
龍大は渋澤に車のキーを渡すとマンションへ入って行った。威乃は眉尻を下げたが、渋澤が頷いたので「おやすみ、おとん。おかんにも」とだけ告げて龍大の後を追った。
それを見届けると龍大の乗り捨てたAMG 450d 4MATICに乗り込みスマホを手にした。
「あ、兄貴、お疲れ様です。今から向かいますが、少し耳に入れておきたい事がありまして…」
獅龍が威乃に絡んだことを告げると電話の向こうから長い長い溜息が聞こえた。獅龍が帰国してからというもの、梶原から安息という文字が消えた。
余計な仕事も心配事も増え、仕事がスムーズに進んでないようだ。
『何で、いや、龍大さんの家にどうやって。いや、そこやないか。やのうて、何それ、アホなん、あの子。もう意味わからん』
「威乃と龍大さんのことを怪しんでます。組長に告げ口でもされたら」
『死んじゃうよねー。あー、もう。でも、お友達おらんやろっていうんは獅龍さんには効いたんちゃうかな』
「そうですかね」
威乃にしては珍しい口撃だった。渋澤が知る限り、口よりも先に手が出る感じだ。親子となって日は浅いが、愛とのことや自分の昔のことを少しづつ話してくれるようになった。
その話の中での印象が、見かけによらず喧嘩っ早い上に強いだったのだ。
「小沢にも聞き出そうとしていたくらいですし、どうしても威乃との関係を龍大さんに言わせたいように見えました」
『何を焦っとんねん。まぁええわ。獅龍さんの性格からして、今の段階でどうこういうことはないとは思うけど、厄介やな』
「あの、名取、一人で帰らせたんですけど平気でしょうか」
ハルの店に急に行ってなぜか喧嘩を売った。その理由はまだハッキリとしていない。そんな中、単独で行動させてよかっただろうかと渋澤に不安が過った。
『ああ、あっちは大丈夫。あれやあれ、兄貴がおる』
「はぁ…」
『獅龍さんも同じ轍を踏むようなことはせん。正面きってヤられたのに、またヤられたらそれそこ親父に何て言われるか。傭兵やなんや言うても極道もんやない素人に完膚なきまでにヤられたんは正直痛いやろうし。反対に叩きのめしてくれてありがとうかもな』
「そうやったらええんですけど。とりあえず今から向かいます」
渋澤はそう言うと電話を切ってアクセルを踏んで駐車場に向かった。
「龍大、ほんまに平気なん、あいつ」
部屋に入るのを思わず渋るが、そんなことをしていても仕方がないと靴を脱いだ。
「今日は来ーへんから平気や」
「なんでわかるん」
帰ったと見せかけてみたいな、安っぽい映画みたいなことするかもしれないでしょ?と威乃が不安げな顔を見せると、その頬にキスをして小さく笑った。
「そういう分かりやすいのはしない」
「分かりやすい?」
「マンションの前にいたことは驚いたやろ?威乃も俺も。でも、この部屋に来るかもっていうのは今、威乃が言ったくらい分かりやすい行動になる」
「うわ!みたいにされたいん?変態やん」
サプライズ好きってことか?よく言えば。
「それに、獅龍は、一回で何でも済ましたいから平気」
「え?なに?どういうこと?」
「何でも同じ事は2回したあらへんねん。2回挑んでとか、そういうのが嫌いやから」
「え?じゃあ、何で俺に絡んできたん?2回目やん」
「それは…」
龍大はふと口に手を当てて考えるような顔を見せた。そこで二人して顔を合わせ「まさか」と口にした。
「ほんまに俺に用があったんか」
だから一人で護衛もいなかった?少し離れて待たせてた?わざわざ車を降りて一人で?
「やとしても、ええ話やないやろうな」
「そう?何かあったんかも」
威乃の顔を見て龍大は片眉を上げてソファに腰を下ろして威乃を引き寄せた。そして両手を取ると指でするすると撫でて、真っ直ぐ、威乃を見つめた。
「威乃、これはどうも出来ひんことやから言うとく。獅龍は俺が憎くて仕方ないし、おかんを恨んでる。ああいう性格やから、もし間違ってるとしても改めたり考え直したりはせんねん。やから俺を頼るとか俺に忠告するとか、まして仲直りするとかは絶対にないねん」
龍大のその言葉に威乃はどこか寂しさを覚えた。ぎゅっと唇を噛んで、菖蒲の顔を思い浮かべた。息子二人が仲違いしていること、どう思っているのか。
この親子の全てを知るわけではないし、龍大と獅龍の関係性を熟知しているわけでもない。でも、家族ってそんな”絶対”があるんだろうか。
「威乃」
抱き寄せられて威乃も答えるように身体に手を回す。押し付けたいわけではない。理想の家族像というのがあるわけではないし、威乃は一人っ子なので兄弟のあれこれは分からない。
ただ、何だか寂しいなと思った。
「ハルと夏にぃはアホ兄貴と龍大とはちょっと違うね」
「なにが?」
「ハルは夏にぃをヤバい奴って、実際にヤバいけど、ちょっと一目置いてる。やから口答えとかせん。でも、兄貴って思ってる」
「俺は、獅龍を兄貴とは思うてへんからな」
「龍大にとっての兄貴って、あれやもん、鬼塚心」
ふふっと笑うと龍大も「そうかも」と笑った。胸に耳をつけていると心地の良い心音が聞こえる。熱と、音と、香り。龍大を全部感じれるここが好きだ。
「また、」
「え?」
「また育ったよな?」
一度、離れてスーツのジャケットの中に手を入れ、ぎゅっと腕を回す。前まで届いていたところに腕が届かない。
育ち盛りのアスリートじゃないんだからと思うほどに筋肉と僅かな脂肪で柔らかな胸板と、筋が浮き上がるほどに絞られ掘り込まれた腹筋。仕事の合間にジムに通っているとは聞いてはいるが…。
「アスリートの身体やん」
「そう?でも筋肉で重いだけになるとスピードが出ない」
「いや、はぁ?」
マジでアスリートじゃない。こっちは毎日毎日、甘いものを食べ続け向日葵と昼休みには身体を動かして、カロリー消化!と喚いているというのに。
「俺が反対にぷくぷくになったら?」
「大丈夫」
何が?と見上げるとヒョイっと持ち上げられた。ずるっと滑るので龍大の腰に足を巻きつけた。
「威乃は太っても可愛い」
「いや、それは嘘や!そういう恋人の言葉に甘んじて油断した身体になったら、ないわって言われるやつ!」
「そうか?」
片眉を上げて、それはないけどなと言いながら龍大は部屋を移動して威乃を抱えたままベッドに腰を下ろした。
「運動するから平気やろ?」
「う、運動て」
セックスは運動なのか?いや、運動か。いや、運動っていうのもなんか嫌やなと唸っていると、龍大がスーツのジャケットを脱いでネクタイの結び目に指を入れて外した。
この瞬間、エロいから好き。あと男前すぎてヤバい。
「俺の彼氏がイケメンすぎて怖い」
「何それ」
少しだけ笑われるが、本当に格好良すぎて困る。威乃は龍大の腰に足を回すとチュッと口付けた。
「アホ兄貴にバレたらヤバいな」
「萎えること言うな」
うん、ごもっともと手を伸ばして龍大を呼ぶと何も言わずに唇が重なった。少し口を開いて龍大の舌を招き入れる。
上顎を舌で撫でられ、舌を絡められていると熱を持って膨らむペニスをジーンズの上から撫でられ腰が跳ねた。刺激を与えられて更に成長したことでジーンズがキツい。
腰を捩るとボタンとジッパーを下されて開放感に息を吐いた。
「威乃…」
吐息を吐くときに漏れるように名前を呼ばれるのが好き。声に熱が篭っていて、それだけで腰が震える。
威乃は龍大のスラックスのボタンを外すと自分から腰を龍大に当てた。重みのあるペニスに当たっただけで小さく声が漏れる。
今からこれで犯されると期待してなのか、後ろの蕾がひくついたのも分かった。のたのたとジーンズを脱いで龍大に足を巻き付けるとズルッと腰を動かした。
「あ、これ、気持ちいい」
「威乃の、濡れてる」
言われなくてもアンダーウェアの中はぬるぬるとして染み出すくらいだ。その摩擦が先端を刺激して気持ちが良くて、恥ずかしいことを言われても腰が止まらない。
龍大も威乃のそれに興奮して威乃のシャツを脱がすと、興奮から腫れて震える胸の飾りを唾液で濡らした指で捏ね始めた。
「あ!龍、大…っ!それ、やば」
背中に腕を回して腰の動きが激しくなる。龍大は威乃のアンダーウェアを脱がして自分もそれを脱ぎ捨てると、もっと直接、ペニス同士が絡み合うように威乃を抱き寄せた。
案の定、快楽を求めて威乃が必死に腰を振って声を上げる。キスはしたいが声を聞きたいと龍大は自分の指を威乃の口に咥えさせた。
「どうやって舐められたい?吸う?」
耳元で囁くように言うと絡みついた威乃のペニスが跳ねて先端から濃い蜜を吐き出した。龍大の太い指を吸って想像したのか、ブルっと軽く震えている。
「喉の奥まで突っ込んで吸う?ほんで、」
「あっ!ダメ!!んんっ!」
小さく噛みつかれたが龍大は悦に入った笑みを浮かべた。威乃はペニスを絡めさすだけでは我慢できないと両手で二つのペニスを持って扱き始めた。
はぁはぁと息を上げて頬を紅潮させて必死に手を動かして快楽を求める様には龍大も息が上がった。押さえつけて後ろの龍大しか知らない秘密の場所に太く育った雄を捩じ込んで犯したい欲望を押さえ込んで、威乃の痴態を見て愉しむ。
龍大は少しのスパイスとばかり、威乃の乳首を弄ったり唇を舐めたりはするが自分から手を出してペニスを扱くことはしなかった。
「あ、ああ、気持ちいいっ、龍大、いい?ね、いい?」
「威乃」
返事の代わりにキスをして、背中を指で撫でながら柔らかくて形の良い尻を撫でると威乃が口を離して「ダメっ」と言った。
「なんで?」
「気持ち、いいから。だめ、すぐ出ちゃう」
「出さんといて」
忠告するように言って、キュッと締まった窄まりの周りを解すように指を当てていくと、ペニスを扱くスピードが上がった。
「出したら、挿れたれへん」
言うと、手が止まり、小さく「いやだ」と蚊の鳴くような声が聞こえた。それに龍大は堪らないと威乃の耳たぶ噛んで、ツプッと指を威乃の中に捩じ込んだ。
「あ、あああ!ダメ、あー、ダメって」
「動かしてへんよ?」
「…ぁ、だ…て、指、あ…ぁ…んっ…!あ、!ダメ、、い、きった…いぁ、あぁ!あぁあ…っっ…っ!…」
「俺の良いから、自分のん擦って」
ほらと促せば、威乃は夢中で自分のペニスを扱き始めた。ぐちゅぐちゅと淫猥な音が大きく聞こえる。指を締め付けながら、どんどんと足を広げていく。
とうとう仰向けになった威乃は足を大きく広げて、後ろを龍大の指を入れたまま激しくペニスを扱き始めた。